まるで本物! 油脂の結晶化で代替食品をよりおいしく

まるで本物! 油脂の結晶化で代替食品をよりおいしく

チョコレートは口どけが命

チョコレートを構成しているココアバター(油脂)の結晶は、ちょうど33度くらいで融ける「準安定」な構造をしています。それが時間の経過でより安定した構造に変わってしまうと、口の中で融けにくくなり、味に変化はなくても食感が失われてしまいます。つまり、チョコレートのおいしさには結晶の構造が大きな影響を及ぼしているのです。

代替チョコレートも結晶化でおいしく長持ち

そのチョコレートですが、近年、気候変動などが原因でカカオの生産が減少し、ココアバターの価格は高騰しています。そこで、代わりにヤシの実の油でできた「ココアバター置換脂(CBS)」を使った代替チョコレートがあります。味も、時間がたつと結晶が安定化してしまうところもチョコレートとよく似ています。
研究により、CBSは一般的な温度(20度)で冷やし固めると1カ月半で口どけが悪くなってしまうのに対し、28度でゆっくり冷やし固めた場合は、時間がたっても口どけが悪くならないことがわかりました。X線の構造解析により、20度に比べて28度の結晶は構造のひずみが小さいことが明らかになっています。ただ、28度で固めたのでは生産効率が低くなってしまうので、一般的な温度でひずみが小さくなるような結晶化の方法が模索されています。

代替肉もジューシーに

世界的な人口増加で環境に負荷をかけないタンパク源の確保が必要です。代替肉はその方策の一つですが、パサパサした食感の改善が課題です。代替肉にジューシーさを加えるものとして「オレオゲル」という、いわば油のゼリーの研究が進められてきました。しかし、植物性ワックスの結晶を骨格にしてオリーブ油などの液体油を保持させたゲルは、不安定で実用に至っていません。これに対し、適切な温度で油脂を結晶化させたものを骨格としたところ、オレオゲルの安定化に成功しました。ここでも油脂の結晶化の温度の知見が生かされており、代替肉の食感を改善してくれるものとして期待されます。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。

先生情報 / 大学情報

広島大学 生物生産学部 生物生産学科 食品科学プログラム 准教授 小泉 晴比古 先生

広島大学生物生産学部 生物生産学科 食品科学プログラム 准教授小泉 晴比古 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

結晶成長学、食品物理学

先生が目指すSDGs

メッセージ

大学で生物学をやりたいと思っている人は、受験科目で生物と化学を選択することが多いでしょう。しかし、大学ではいろいろな分野の勉強が必要です。私の研究室は生物系の学部にありますが、やってることはほぼ物理学で、それに加えて油脂の化学的な知識や、食品を食べたときの生物学的な知識も必要です。大学入試では受験科目をしっかり勉強しなければいけませんが、知識は多ければ多いほど役に立ちます。受験科目以外の勉強も、入試に必要ないから関係ないと思わずに、幅広くチャレンジしてみてください。

広島大学に関心を持ったあなたは

広島大学は社会に貢献できる優れた人材を育成し、科学の進歩・発展に貢献しつつ、世界の教育・研究拠点を目指す大学です。緑豊かな252ヘクタールという広大な東広島キャンパスを抱え、また、国際平和文化都市である広島市内等のキャンパスを含め、12学部、4研究科、1研究所、大学病院並びに11もの附属学校園を有しています。 新しい知を創造しつつ、豊かな人間性を培い、絶えざる自己変革に努め、国際平和のために、地域社会、国際社会と連携して、社会に貢献できる人材の育成のために発展を続けます。