ザゼンソウに学ぶ温度制御術 バイオミメティクスが開く未来
生物から知恵を学ぶ
「バイオミメティクス(生体模倣技術)」は、生物の持つ優れた能力を工学的に応用する研究分野です。例えば、カワセミのくちばしの形状を模倣した新幹線の先頭部分や、ヤモリの足の裏を模倣した接着剤などが有名です。生物の形態だけではなく、イカの神経系の伝達方法やコウモリの超音波を真似た事例などもあります。近年では、生物の内部機能の複雑なアルゴリズムに着目した研究も行われています。
ザゼンソウに秘められた知恵
ある種の植物は、外気温が変動しても内部温度を一定に保つことができます。サトイモ科のザゼンソウもその一つで、寒暖の差が激しい時期に外気温が氷点下から15℃ほどまで変化しても、花の部分を23℃前後に保ち続ける優れた能力を持っています。外気温の変化に対して、ザゼンソウの花の部分の体温がどう変化するかを観測して結果を解析したところ、複雑なカオスの「温度制御アルゴリズム」を持っていることがわかりました。抽出したアルゴリズムをプログラムに実装して実際の環境で動作確認を行った結果、おおむねザゼンソウの体温調節に近い応答が得られました。
温度管理の範囲を広げる
従来の温度管理技術には、100年ほど前に開発されたPID制御という手法が使われています。この手法は制御対象とする現象が「線形」であれば精度よく機能しますが、「非線形」な場合にはうまく制御できない場合があります。例えば、電気炉の温度制御において、応答が非線形になる高温領域を簡単にはカバーできません。そこでザゼンソウの温度制御アルゴリズムを取り入れることにより、広い温度領域でも有効な温度制御装置が開発されて、実際に工場などで利用されています。
このようにバイオミメティクスは、生物の観測から、数理的な手法を使った解析や具体的なものづくりまで、複数の分野の専門家が協力して進めます。そのプロセスで得られる知見や生まれる成果がそれぞれの分野で別の展開にもつながり、多様な広がりを生んでいく、実り豊かな分野です。
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先生情報 / 大学情報
岩手大学 理工学部 システム創成工学科 電気電子通信コース(令和7年度から 理工学部 理工学科 電気電子・情報通信コース所属) 教授 長田 洋 先生
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