美は自分の中に眠っている? 見えないものを見せる現代美術
自由な表現が作品になる
場所や空間そのものをアートとする「インスタレーション」と呼ばれる芸術作品があります。造形作品は形を作りこむだけでなく、あえて何かを作らないことによって表現する場合もあります。
例えば「音」をテーマとした展覧会で、鑑賞者が中に入ると音が遮断される鉄の箱が展示されました。音のない空間に入ることで、鑑賞者は「音とは何か」を自身で考えます。すると音は外部から聞こえるものだけでなく、脳や体内など自分の中にも存在するのだと気づきます。
鑑賞者の問いを引き出す
現代美術では作品を通して鑑賞者の疑問などを引き出すことが可能です。例えば透明なプラスチックと鏡を組み合わせた椅子の作品があります。周囲の風景が椅子に映りこむ構造で、特に鏡でできた箇所をのぞきこむと鑑賞者の姿が見えるようになっています。すると鑑賞者は、椅子は単なる受け皿であり、その上には何かが存在しているのだと考え始めます。
作品の鑑賞方法と世の中のとらえ方
現代美術を通して自分の中に目を向けると、さまざまな発見があります。例えば物事のとらえ方と現代美術の鑑賞方法が結びついている事例があります。四畳半サイズの真っ暗な部屋の作品で、上下左右に日本画が描かれたものです。鑑賞者は照射範囲の狭い懐中電灯を持って部屋の中に入り、自由に作品を見ます。するとすべての絵を見尽くす人、一部のみをじっくりと見る人など、さまざまな傾向が見られます。こうした作品の鑑賞方法は、その人の世の中のとらえ方を体現しているといえるかもしれません。また、同じ作品を見ても人によって異なる感想を抱くことから、「美」は作品そのものではなく、解釈する人の中にあるのだと気づきます。
現代美術にはわかりにくい作品が多いため、見ただけで「美しい」と思うことは少ないかもしれません。しかし「何を表現しているのか」と疑問を持ち、どこに美が眠っているのか考えるきっかけになることが、現代美術の意義のひとつだといえます。
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先生情報 / 大学情報
玉川大学 芸術学部 アート・デザイン学科 教授 藤枝 由美子 先生
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