商品価値の創造から社会変革へと役割を変える広告クリエイティブ

商品価値の創造から社会変革へと役割を変える広告クリエイティブ

世界の広告の水準を超えてしまった広告

広告には広告的ではない方が広告効果が高いという逆説的な特徴があります。この逆説性を超越した広告が2017年にニューヨークのウォール街に現れました。それは広告とは思えない「Fearless Girl(恐れを知らぬ少女)」と名づけられた少女の像です。世界最大の金融街の真ん中にある株価の上昇相場を象徴する雄牛の像「チャージング・ブル」の目の前に、ジェンダー平等のメッセージを込めて置かれました。広告主はアメリカの資産運用会社ですが、広告主名も商品名も示されていません。これは広告っぽくないという水準をはるかに超えて、販売促進や商品価値の創造という広告の概念までも根本から覆すものでした。

広告は現象創造の時代へ

広告クリエイティブの歴史をたどると、まず「実物伝達の時代」があり、商品の実物が重視されました。車の広告なら、車の特徴をわかりやすく、かっこよく見せることが重要でした。ところが1960年代にフォルクスワーゲン社が「Think Small」という車を小さく扱った広告を出します。商品をイメージとして表現した広告の始まりで、90年代ぐらいまでは実物ではなくイメージを表現してブランド価値を創造する「イメージ表現の時代」が続きました。現在は「現象創造が求められる時代」と言えます。もはや情報には懐疑的になった人の意識を変えるためには、少女像のような新しい社会現象をクリエイティブすることが必要になっています。

現代アートのように描写しないで創造する

「Fearless Girl」のような社会現象の創造は、言語学でパフォーマティビティ(行為遂行性)と呼ばれている考えから生まれています。広告もアートも実物やイメージをメディアに描写するものでした。見事に描写することをクリエイティブだと考えてきました。しかし、それではイノベーションは起こりません。何も新しいことは起こらないのです。描写しないで創造するという極めて難しく先駆的な役割を広告が担う時代になってきているのです。

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先生情報 / 大学情報

大阪経済大学 情報社会学部 情報社会学科 教授 弦間 一雄 先生

大阪経済大学 情報社会学部 情報社会学科 教授 弦間 一雄 先生

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広告論、デザイン思考

メッセージ

あなたがた若い人には、素晴らしい未来を創造してもらいたいと思っています。アメリカのアップル社のiPhoneは21世紀最大のイノベーションの1つですが、日本はバブル崩壊後、そうした世界を変革し大きく進化させる新しいものを何も生み出すことができませんでした。この「失われた30年」の時代の責任は私たち大人世代にあります。今は暗い未来が予想されていますが、それは予想であって未来は創造力で変えられます。まずはワクワクするような未来を想像してください。その想像が創造へとつながっていくはずです。

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