生態心理学の視点から、一人芝居の意味を考える
私たちは環境の中にいる
人間の行動は、周囲に内在するさまざまな要素に影響されています。普段私たちが何気なくおこなっている、道を歩く、椅子に座るいった行動も、実はその周囲の環境に応じた非常に細かな調整を身体がおこなうことで初めて可能になります。「生態心理学」という学問分野では、こうした環境に内在するさまざまな意味(アフォーダンス)を、人間がどのような利用しているのかを研究しています。
たった一人から世界が立ち現れる
俳優のイッセー尾形さんは、日本における一人芝居の第一人者として知られています。イッセーさんはどこにでもいそうな人物が、別の誰かと会話している場面を演じます。落語などとは異なり、その場面がどのような状況なのかという説明は一切おこなわず、役柄も一人二役などの演じ分けはおこなわず、一人の人物のみ演じます。それなのに観客は、イッセーさんの発する言葉や身振り手振りから、その場面で何が起こっていて、どんな人物たちがその場に居合わせているのかが「みえて」きます。
「ええと」「あのー」といったフィラー(会話の合間を埋める命題的には意味のない言葉)やジェスチャーを組み合わせることで人物の特徴を表現したり、ものや状態を形容する際に多彩なバリエーションのジェスチャーで表現したりと、イッセーさんの一人芝居は、卓越した観察力と演技力によって、あらゆるものごとを観客に伝えます。それは、人間がアフォーダンスをどのように利用しているのかを敏感に感じ取り、その反応を緻密に組み上げた成果であると言えるでしょう。
アフォーダンスから考える芸術の意味
イッセーさんの一人芝居のような芸術表現を観る時、私たちは、舞台の上にいる俳優を知覚しながら、その演技によって表現される実在しない人物や世界も感じ取っています。それらは、私たちの日常では味わうことがあまりない知覚の有り様です。まさに、人間が利用するアフォーダンスの存在を強烈に感じ取る体験なのです。
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先生情報 / 大学情報
玉川大学 リベラルアーツ学部 リベラルアーツ学科 教授 佐藤 由紀 先生
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