ハチ公前の待ち合わせから社会学的に考える都市とメディアの変化
待ち合わせは大事?
待ち合わせができることはあたりまえ? どんな社会にも待ち合わせのようなコミュニケーションはあったでしょう。ですが、正確な待ち合わせがより重要な社会があります。それが都市です。狭い範囲に住み、互いの生活パターンがわかる村落であれば、相手がいる場所を「訪問」すればいい。しかし、広い範囲に住み、互いの生活パターンが異なる都市なら? 事前に中間地点と集合時間をしっかりとすりあわせること、つまり「待ち合わせ」が重要になります。待ち合わせは、バラバラの個人が住む都市でお互いが協力しあうための工夫のひとつなのです。
ハチ公は何を表現している?
渋谷ハチ公前は日本でもっとも有名な待ち合わせ場所のひとつです。なぜこんなにも有名なのでしょうか。新聞記事で紹介されたり、映画化されたりしたからですが、なにより待ち合わせ場所はみんなが知っている必要があるからです。一方は知っていて、他方は知らない。これだと待ち合わせ場所としてはちょっと不都合ですよね。しかも、携帯電話がなかった時代、相手がいまどこにいて、本当に来るのかをすぐに確認できません。もう行ってしまった? いつまで待てばいい? 待ち合わせには、そんな不安や切なさがあふれていました。ハチ公は、いつ来るかわからないあの人を代わりに待ち続けてくれているのかもしれません。
待ち合わせを変えたテクノロジーと都市のゆくえ
携帯電話というメディア・テクノロジーは、待ち合わせを変化させました。移動途中で連絡をとれるなら、事前に約束した時間や場所を簡単に変更できます。バラバラの個人が生きる都市の不安や緊張は解消され、ハチ公が表現した切なさは遠くなってしまったのかもしれません。では、もはや待ち合わせ場所は必要ないのでしょうか。まだまだたくさんの人たちが集まるハチ公前を見るとそんなことはなさそうです。いつでもどこでもコミュニケーションできる情報化社会になりましたが、人びとはなぜわざわざ都市に集まるのか? 都市とメディアをめぐる論点は、まだまだ尽きません。
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日本女子大学 人間社会学部 現代社会学科 教授 田中 大介 先生
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