移民が支えるイギリスの福祉国家

移民が支えるイギリスの福祉国家

イギリスの医療

「ゆりかごから墓場まで」は、イギリスの豊かな福祉国家体制を象徴する言葉です。イギリスは、国民の生存権を保障するために医療と福祉を提供する福祉国家体制を構築しました。そして医療は「国民保健サービス」により、原則無償で提供されてきました。国民保健サービスは、第二次大戦の終結後間もない1948年に成立し、その際に大量に必要となった人材をかつての植民地から動員しました。

医師不足を移民が補う

国民保健サービスで働く医師のうち、約3割が外国籍の移民であり、インドやパキスタンなどのイギリスの植民地だった国の出身者が多くを占めています。移民が労働力となってサービスを支えた結果、現在のような福祉国家が形成できたのです。一方で、国民保健サービスは国営であり、働く人の賃金は決して高くはありません。そのため、多くのイギリス人医師たちは高待遇を求めて民間が医療体制を築いている国を中心に、イギリスよりも待遇の良い国に移動してしまい、イギリス国内の医師不足を外国籍の移民が補い続けています。

国際人材を受け入れるために

国を越えて医療行為を行う際にハードルとなるのは、国ごとに定める資格・免許です。例えば、日本では原則、日本の医師国家資格がなければ国内で医療行為ができません。しかしイギリスでは、英連邦(旧植民地の国々との連合体)の一部の加盟国の資格の承認に加え、EU加盟当時はEU内の資格もイギリスの国家資格と同等として認めてきました。国際人材を受け入れるために、専門職としての労働に必要な法令の整備を進めてきたのです。資格だけでなく、職能団体や労働組合など、外国籍労働者のためのサポート体制も整えられています。
イギリスは歴史的な国家間の結びつきの上で、長い時間をかけて法令や体制を整備しながら国際人材を受け入れてきました。高齢化率が世界で最も高い日本でも、介護の人材不足を補うために外国籍労働者の雇用が求められています。それを実現するためには、「人を受け入れる土壌」を十分に整える必要があります。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。

先生情報 / 大学情報

岩手県立大学 社会福祉学部 社会福祉学科 准教授 日野原 由未 先生

岩手県立大学 社会福祉学部 社会福祉学科 准教授 日野原 由未 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

政治学、社会福祉学

先生が目指すSDGs

メッセージ

海外に行くのは状況や経済面で難しいことがあるかもしれません。しかし、実際に訪れることで受け取れる情報や、心が動かされる体験は現地でこそ得られるものです。チャンスがあったら、ぜひいろいろな世界を訪れてみてください。そして、興味を持ったことに関して、自分にとって一番しっくりくる視点を考えてください。例えば「イギリス」についても、社会学から見た側面と、政治学から見た側面は違います。興味のあることと切り口を考えると、大学での専門と研究のテーマが見えてきます。

先生への質問

  • 先生の学問へのきっかけは?
  • 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?

岩手県立大学に関心を持ったあなたは

大学は「知識」を得る場であるだけではなく、「人生の目的」を考える場であり、これからの人生で自分は何をなすべきかを探求する場でもあります。人はそれぞれ固有の素質と能力を持っています。それをいかに見出し、育成していくかが教育の最大課題であると考えています。この大学での貴重な学習期間に、自己の能力と個性を伸ばし、適性を見出すことに努めてください。本学の教職員は、全力を挙げてこれに協力します。