仕合わせと幸せ―中島みゆき「糸」から考える倫理学
「仕合わせ」と「幸せ」
中島みゆきさんの「糸」は、人生に迷い、夢に破れた主人公が「あなた」と出逢うというストーリーの歌で、「逢うべき糸に出逢えることを人は仕合わせと呼びます」という言葉で終わります。ここではなぜ、一般的な「幸せ」という表記ではなく、「仕合わせ」が使われているのでしょうか。実は古語「しあはせ」は、みずからの努力で物事をうまく処置する、「し―あわせる」ことを意味していました。それが、神仏や運命など、みずからを超えた大いなるはたらきによって「し―あわせ」られるという受動の意味で使われることが多くなり、その後、幸運の意味に特化して使われるようになってきたのです。
「おのずから」と「みずから」
「しあわせ」という言葉の意味がこのように変化してきた背景には、「みずから」と「おのずから」という二つの言葉の関係があります。私たちは「お茶が入りました」と、「みずから」がお茶を入れたにもかかわらず、お茶が「おのずから」入ったかのような言い方をします。つまり、日本人は、「みずから」が何かをする背後には、大きな流れや力のようなもの―「おのずから」―がはたらいていると捉えているのです。「自」という漢字を「みずから」とも「おのずから」とも読むように、日本人は「おのずから」と「みずから」を重ねて考えてきました。「糸」で「仕合わせ」と書かれているのは、「あなた」と出逢えたのは自分一人だけの力によるのではなく、「みずから」を超えた「おのずから」―たとえば運命や神や仏といったものや、周りの人たちの協力やご縁など―によって「し―あわせられた」ということが意識されているからなのではないでしょうか。
身近な題材から学問へ
倫理学の「倫」には、人の間、仲間という意味があり、倫理学は、人と共に生きる存在としての人間の生き方を考えていく学問と言えます。身近なきっかけをもとに考えを深められることが倫理学の面白さと魅力なのです。
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先生情報 / 大学情報
日本女子大学 国際文化学部 国際文化学科 ※2023年4月開設 准教授 伊藤 由希子 先生
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