海外の事例に学ぶ、移民がより活躍する社会のあり方
知識集約的人材の受け入れ
国境を越えて多くの人が行き来するグローバルな世界では、移民を積極的に受け入れる国があります。例えばカナダやオーストラリアはコンピュータエンジニアや医師といった人材の獲得に力を入れており、高い学力と高度で知識集約的な職業についていた経験をもつ人たちを「ポイント制」によって評価して受け入れています。しかし、こうした制度を利用して移住した人たちを調査したところ、実際に高度な知的・分析的要素が求められる分野で働く人の数は少なく、要求される知的、分析的レベルは移住先の国の平均よりも少し高い程度にとどまっていることがわかりました。
語学力の重要性
その要因のひとつが語学力です。カナダでの調査では、公用語である英語もしくはフランス語で日常会話ができる、あるいはそれ以上の語学力があっても、想定された職業に就けない人が多くいることが確認されました。移住先で働くには専門知識やスキルだけでなく、同僚と意見を交わし、自分の意思を顧客に正確に伝える必要があり、日常会話能力より高度な語学力が求められるのです。また、移住先の労働市場を理解することが難しいため、多くの移民が移住から3~5年後も同じ職場に留まり、賃金や生産性も伸びないといった現象も確認されています。
日本の受け入れ制度
日本では、外国人技能実習制度を用いて外国人材を受け入れていますが、これは近年の経済学における移民研究の潮流に逆行する政策であるといえます。これは本人の希望によらず特定の職業に迎え入れる制度なので、移民が日本社会に適応し、転職を経験しながら自分に合った仕事を見つけ、賃金と生産性を上げていくという大切なプロセスが奪われているからです。近年、メディアでは「海外で活躍する日本人」がもてはやされていますが、日本が本格的なグローバル社会へと変わるためには、海外から日本に来た人たちがより活躍しやすい制度や環境を整えることが不可欠なのです。
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北海道大学 経済学部 公共政策大学院 教授 今井 晋 先生
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