菌が作り出す伝統的な発酵食品
微生物を使って発酵食品を作り上げた先人の知恵
乳酸菌、酵母、カビなどの微生物の力を使って作り上げられる数々の発酵食品。これらは、先人たちの食品製造に対する情熱とともに長い歴史の中でさまざまな製法が編み出され、独特な味わいを持つ数々の食品に仕上がったものです。例えば、日本では醤油や味噌などの多くの発酵食品に麹(こうじ)菌が使われています。麹菌は、アスペルギルス属の1種類のカビを純粋培養したものです。麹は日本だけでなくアジアの広い地域で食品に使われますが、その菌を調べてみると、日本とは違って複数種の菌が混ざっているものが多く菌の種類も違います。もし、日本酒に他の国の麹を使ったら、伝統的な日本酒と同じ味にはならないでしょう。日本の菌と技術を使うからこそ伝統の味となるのです。世界各地の伝統発酵食品にはそれぞれの技術の粋が集められています。
四季を利用した発酵の調整
魚を発酵させてつくる調味料は「魚醤(ぎょしょう)」と呼ばれ、日本では石川県の「いしる」、秋田県の「しょっつる」などがあり、東南アジアにはタイの「ナンプラー」、ベトナムの「ニョクマム」などがあります。これらの味の差は仕込み方法や環境も関係すると考えられます。例えば、「いしる」の仕込みは腐敗の起こりやすい夏を避けて、秋口や春先などの気温が低い時期に行います。四季を巧みに利用して発酵を制御しながら作り上げるのが日本の伝統製法の特徴で、日本酒や「いずし」の仕込みにもみられる特徴です。
伝統食を科学で検証
発酵食品は冷蔵庫のなかった昔の人が食べ物をおいしく保存する知恵でもあり、紀元前5000~6000年頃にはすでにヨーグルトやお酒を生み出していました。実際に見ることの出来ない微生物を操り、適切な製造法を確立してきたのです。
現在では、それらの発酵食品に生育する菌を特定するなどの科学的な検証が行われています。多くの伝統食において菌と製法の組み合わせが最も合理的なものになっていることがわかっており、昔の人の洗練された技術に驚かされるばかりです。
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石川県立大学 生物資源環境学部 食品科学科 准教授 小栁 喬 先生
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