建設を中止・延期する「選択」も、リスクを減らす方法のひとつ

建設を中止・延期する「選択」も、リスクを減らす方法のひとつ

電力が売買できるようになっている

世界的な電力エネルギー自由化の波によって、2005年に日本にも電力の卸市場が生まれ、大口の電力が市場を通して売買可能となり、電力会社以外からも電力業界に参入できるようになりました。また、環境問題への関心の高まりとともに、政府が主導して太陽光発電や風力発電などの分散型電源も推進されようとしています。こうした経済や社会環境の変化のもと、わが国の電力業界を主導してきた電力会社も、より収益を重視した経営戦略を考えなければならなくなり、それとともに、発電所建設などの設備投資に関する経済的な価値評価やリスクを意識する必要に迫られるようになりました。

発電所を作るにもリスクがある

電力会社が発電所を建設する場合、完成するのは何年か先になります。その時の経済状況やCO₂排出量などの環境問題がどのようになっているのかはわかりません。つまり発電所を作って利潤を上げられるかどうかには、不確実性とリスクがあるわけです。このようなリスクをともなったプロジェクトの将来収益を推測し、その価値を評価するために、確率論や統計的データ分析の手法が用いられます。
リスクを減らす方法のひとつにリアルオプションがあります。例えば完成させて損をするのがわかれば事業から撤退できる、何年か先の方が収益を見込めるのであれば延期するという選択肢のことで、建設業者などとリアルオプションの契約を交わしておけば、リスクを少しでも減らすことになります。もちろん、リアルオプション契約には業者への賠償などの項目も設定されますが、完成させた場合との比較によって、中止などの選択ができるということで、リスク軽減を図っているのです。実は電力業界だけでなく、特に不況になるとどの企業でもリスクや不確実性への意識は高くなり、そのことを背景に、不確実性を含むプロジェクトの価値評価やリアルオプションの手法は、企業経営の立場から注目が集まっています。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。

先生情報 / 大学情報

名古屋市立大学 経済学部  教授 三澤 哲也 先生

名古屋市立大学 経済学部 教授 三澤 哲也 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

計量ファイナンス、金融工学

メッセージ

一般に経済学部は文系に分類されていますが、実は数学などの理系の素養が生かせる分野でもあります。実際に金融業界では金融工学という、文理融合型の分野が目覚ましく発展し、理系出身の人も数多く活躍しています。理系だから、文系だからという先入観にとらわれ、安易に学部を決め付けるのではなく、自分が関心のあることにもっと視野を広げて考えてほしいと思います。経済・経営分野に関心のある人はもちろんのこと、理系に強い人にももっと経済や経営のことに関心を持ってもらえたら、幸いです。

名古屋市立大学に関心を持ったあなたは

名古屋市立大学は、医学部・薬学部・経済学部・人文社会学部・芸術工学部・看護学部・総合生命理学部の7学部とそれぞれの研究科およびシステム自然科学研究科からなる総合大学です。
大学の最も重要な使命は、優れた教育を通して地域および国際社会で活躍する有為な人材を育てること、すなわち「人づくり」です。知識の詰め込みではなく、自ら課題を見つけ、その解決に正面から取り組む姿勢を養うため、本学では、学生と教員の触れ合いを大切にし、演習、実習を重視する少人数教育を行っています。