信長の前に天下人がいた? ゲームや漫画で描かれない戦国武将の実像
三好長慶と松永久秀
戦国時代を代表する英雄といえば織田信長ですが、信長の前に「天下人」にふさわしい働きをした武将がいたのです。当時「天下」と呼ばれていた畿内を治めた三好長慶(みよしながよし)です。小説や漫画、ゲームなどでは優柔不断で保守的な人物として描かれ、弱体化した室町幕府をいたずらに延命させたとされていますが、近年の研究では、戦国時代で初めて足利将軍家を克服しようとしたことがわかっています。また、長慶に仕えた松永久秀(まつながひさひで)も、ずる賢い梟雄(きょうゆう)とされていますが、本当は非常に優秀な実務官僚であり、自分を登用した長慶に忠節を尽くしたこともわかっています。
実像と離れたのはなぜ?
久秀が悪く描かれてきた背景には、江戸時代初期の「二次史料」が大きく関係しています。当時、元家臣であった徳川家康が将軍となり、主家の豊臣家を乗り越えようとする中、豊臣方が久秀を主家に背いて滅亡した悪人として宣伝し、家康をけん制しようとしたからです。それがその後、講談や浮世絵の「ネタ」となり、現代まで影響を及ぼしているのです。人物や出来事を正しく知るには、久秀が生きた時代の公家や僧などが書いた手紙(文書)や日記など、「一次史料」を確認し、丹念に考証を重ねる以外に道はありません。
歴史研究を現代に生かす
近年の長慶や久秀の研究から見えてくるのは、二人が戦国時代に厳然としてあった家柄や身分秩序の壁を乗り越え、新たな社会をつくろうとしたことです。その奮闘があったからこそ、信長や秀吉が天下統一を進めることができたといえます。さらに、政治や経済の機能を主要な城や都市に分担させる長慶の領国経営からは、個性的で持続可能なまちづくりを学ぶこともできます。
戦国時代は人気が高く、多くの武将が活躍した魅力的な時代です。しかし、趣味として雑学的な知識を増やすだけに終わらせず、現代社会を考え直すことに、歴史研究の大きな意義があるのです。
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天理大学 人文学部 歴史文化学科 准教授 天野 忠幸 先生
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