海からの災害をしなやかに防ぐための学問、海岸工学とは?
島国の日本では欠かせない学問
海岸工学とは、土木工学の中でも、海岸付近における開発や防災、環境保全などについて研究する学問です。人間と海との関わり合いについて研究する海岸工学は、周囲を海に囲まれている島国の日本においては、欠かすことのできない研究分野です。
津波や高潮はどれだけ防げるのか?
海に起因する災害として、津波や高潮がよく例に挙げられますが、それぞれの発生メカニズムや特徴はかなり異なります。津波は地震によって突然発生するので予測が難しく、外海に面した海岸に大きな波が来襲して被害をもたらします。一方、高潮は台風や低気圧によって発生するため、ある程度の予測が可能ですが、外海よりも湾の奥で大きな潮位上昇が生じて浸水被害が発生します。こうした違いを理解した上で、海岸工学では、堤防などの防災施設の設計や避難計画を検討していきます。
堤防は、高く大きなものにするにも限界があります。東日本大震災で発生したような高さ十数メートルクラスの津波は防ぐことができません。現在の防災は、数十年から百数十年に一度発生する程度(レベル1)の津波や高潮は堤防などの構造物で、それより大きな最大クラス(レベル2)の津波や高潮は避難計画などのソフト面で対策を準備するのが、基本的な考え方となっています。
石油コンビナートなどからの災害を防ぐために
化学物質を扱う工業地帯や、石油や天然ガスなどの貯蔵施設、原発などを津波が襲えば、深刻な災害が発生する危険性があります。しかし日本では、そうした産業施設についての情報は特別な法律で管理されている場合が多く、産業災害への対策が十分とは言えません。欧米諸国のように、防災に必要な情報をよりオープンにして、地域住民も含めて共有していくことが必要です。
自然の猛威による災害を100パーセント防ぎきることは不可能です。しかし、災害でダメージを受けても、よりしなやかに立ち直ることのできる社会をめざすことはできます。海岸工学の研究は、そうした社会を築くための確かな礎になるのです。
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先生情報 / 大学情報
大阪大学 工学部 地球総合工学科 社会基盤工学科目 名誉教授 青木 伸一 先生
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