堤防を乗り越える水の動きの解析~より強靭な堤防をめざして~

堤防を乗り越える水の動きの解析~より強靭な堤防をめざして~

堤防を乗り越える流れ

河川の堤防や防潮堤は、河川の氾濫や陸地への海水の侵入を防ぐために設けられています。想定される範囲の災害ではこれらの働きにより水の侵入を防ぐことができ、稀にみる大雨や津波で仮に水が堤防や防潮堤を乗り越えても、あふれる水量を抑制し、避難の時間を稼ぐことにも寄与しています。しかし、いったん堤防を乗り越えると水がより加速されたり、堤防に陸地側からダメージを与えて決壊しやすくなったりする可能性も指摘されており、そのような状況でも効果を維持する堤防が求められています。

流れの数学的な解析

流体にはそれ自身が動く速さとしての流速の他に、波形パターンが動く速さとしての位相速度があります。流速と位相速度の大小関係により流れの様子が大きく変わりますが、堤防を乗り越える時など底面地形が変化する場や、断面積が変化する場を流れるときに流速と位相速度が逆転することがあり、周囲の構造物がダメージを受けやすくなります。このような流れは、水道の蛇口から出る水が洗面台にあたって同心円状に薄膜が広がった後に急に厚みを増して流れていく場面や、河川で急な堰の前後を緩斜面が挟んでいる場所など、実は身近に見ることができます。流速と位相速度の大小関係が入れ替わるような流れ場を数学的に解析することは困難だったのですが、最近の研究で解析方法が開発され、どのようなしくみで流れ場が維持されているのかが明らかになってきました。

流れ場の制御

東日本大震災での津波被害や近年相次ぐ豪雨災害を受け、どのような堤防を設けることが望ましいか、改めて議論や研究が進んでいます。理論的な解析でも数値計算を用いる解析でも数学的にたしかな基礎に基づいて進める解析は非常に強力です。数学的に厳密に取り扱える状況はまだ理想化されたものに限られていますが、数学の中でも解析学のみならず、幾何学や最適化など複数の分野の知見を総合して応用分野の研究者と協同することで、現実に求められる課題にも答えられるような研究が進展することが期待されています。

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先生情報 / 大学情報

東京海洋大学 海洋資源環境学部 海洋環境科学科 准教授 大縄 将史 先生

東京海洋大学 海洋資源環境学部 海洋環境科学科 准教授 大縄 将史 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

流体力学、解析学、数値計算

先生が目指すSDGs

メッセージ

高校での勉強は、予め答えが用意されている問題がほとんどですが、実際の世の中で出会うのはできるかどうかもわからない問題ばかりで、すぐに投げ出していては何もできません。そもそも問題をどう設定するかというところから自分で考える必要があります。専門家とはあらゆる失敗を経験した人のことだという言葉もあります。大学での四年は考え方の移行期として、自力で考え抜き、失敗してもそれだけ成功に近づくのだと失敗を楽しむくらいの気持ちでいると、他人にまねのできない能力を身につけた自分に成長できているかも知れません。

先生への質問

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東京海洋大学に関心を持ったあなたは

東京海洋大学は、全国で唯一の海洋にかかわる専門大学です。2大学の統合により新しい学問領域を広げ、海を中心とした最先端の研究を行っています。海洋の活用・保全に係る科学技術の向上に資するため、海洋を巡る理学的・工学的・農学的・社会科学的・人文科学的諸科学を教授するとともに、これらに係わる諸技術の開発に必要な基礎的・応用的教育研究を行うことを理念に掲げています。