突然変異が私たちの食生活を豊かにした
突然変異によって多様な生物が生まれる
環境汚染などを理由に突然変異が起こり、通常ならありえない形態の生物が誕生することがあります。私たちはそれを異常、つまり悪いイメージで考えがちですが、実は突然変異がなければ食生活は豊かになりません。「品種改良」や「育種・選抜」という言葉を耳にしたことがあると思います。これらの技術で生み出される、収量が多いイネ、卵をたくさん産むニワトリ、ミルクをたくさん出す牛は、突然変異が起こる原理を利用したものです。人間は人為的に多様な生物を作り出してきました。突然変異はそのための原動力となっているのです。
ニワトリの起源は1つかも
このことは生物の起源を見るとわかります。たくさんの種類が存在すると思っている生物も、野生としては1種しかない場合が少なくありません。ニワトリもその1つです。最新の遺伝子研究によって、養鶏に使われるニワトリの起源はアジアに広範囲に生息する「赤色野鶏」であることがわかっています。アジアにはほかにも3種類のニワトリがいますが、それらの関与が低いことがわかっています。人間は、主として赤色野鶏からさまざまなニワトリを作り出しました。代表的なものとして、卵をたくさん産む「レイヤー」と肉がたくさん取れる「ブロイラー」が有名です。
人間の「保護」で多様な生物が可能になる
品種改良や育種・選抜の基本的な方法とは、突然変異で偶然見つかった人間にとって都合のいい性質をもつ生物を、交配によって次の世代に生かしていくというものです。自然界ではいくら優れた性質があっても、環境に適応できなければ生き残れません。ところが、人為的に作り出された生物は環境に適応できなくても死に絶えることはありません。これは人間がそのような生物を環境から守るからです。例えば、収量はいいが病気に弱い性質をもつイネに対しては、病気の原因となる害虫を駆除することでイネを保護します。このようにして、人間は同じ種でも多様な生物を生み出すことができるのです。
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広島大学 生物生産学部 生物生産学科 教授 西堀 正英 先生
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