裁判資料から読み解く! 古代ギリシアという異世界
裁判資料からわかるリアルなアテネ
歴史書にはあまり書かれていない、古代ギリシアのアテナイ(アテネ)の人々の生活や価値観を知るのに、裁判資料を読み解くという方法があります。当時は裁判制度が発展しており、人々と法律との接点が多い時代でした。民主政のもと、法律が市民の権利を守っていたのです。現代と違うところはいくつかありますが、中でも特徴的なのがプロの裁判官も弁護士もいなかった点です。告発も弁護も訴える本人が行い、ジャッジするのも何百人もの市民裁判員だったので、人々の心をつかむことが勝訴のための重要なカギでした。自分で自分を弁護するため、法廷では、今よりもっと内面的なことやその人の人柄などが表れやすく、当時の人々のリアルな価値観が見えてきます。
家族の絆が大切にされていた時代
紀元前4世紀頃のアテナイは大家族ではなく、現代のようにコンパクトな家族構成が一般的でした。そして、愛情がとても強調される時代でもありました。家を守り伝えることも大事でしたが、嫌いな親戚ではなく、できるだけ親しい親戚に財産を譲りたいと考え、同じお墓に祀られることもあったのです。このように裁判資料からは、家制度というよりも愛情による結びつきが強かったことがわかります。
アテネ独自の恋愛事情
しかし大きな違いもありました。例えば夫が妻に恋していても、それを公衆の面前で語ることはありませんでした。男らしくないからです。当時は親が決めた結婚が一般的で、妻の役割は、家庭を守り子どもを育てることだったという社会的背景も関係していたことでしょう。恋愛は家庭の外ですることだったのです。少年と若者のあいだの同性愛は、とりわけ美しいものと考えられていました。このように昔の人々の価値観や社会の仕組みを明らかにしていくと、現代社会の仕組みが当たり前ではなく、さまざまな可能性のうちの1つであることがわかってきます。歴史を学ぶと、今自分がいる世界とは違うもう1つの世界に入り込み、旅するように異世界の人々と出会うことができるのです。
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大阪大学 文学部 西洋史学専修 教授 栗原 麻子 先生
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