誰でも結果を再現できるように 心理学の研究方法を考える
研究結果の大半が再現できない?
発表されている科学論文について、その実験を再現してみると、発表されている結果通りにならないことがあります。社会に大きな影響を与えた研究でも再現不可能なものがあり、多くの人が正しいと信じていることが実は間違っているのではないか、という恐れがあります。このような「再現性の危機」は当初、医学分野で問題視され、科学全般で指摘されるようになりましたが、心理学も例外ではありません。過去には100件の心理学研究のうち、もともと97件で統計的有意性(誤差や偶然ではなく明らかな意味があるとする状態)が確認されていたものの、追試験をするとわずか35件でしか有意性が示されなかったこともあります。
再現可能な研究にするためには
なぜこのような事態になるのかを考えると、研究者が都合よく統計解析を実施し、狙い通りの結果に見せているケースがあります。また、結果が出てから仮説を作り直す、という不正もあるかもしれません。特に心理学は移ろいやすい人間の心を扱うため、たまたま出た結果に左右されることもあるでしょう。このような事態を改善して再現可能性を高めるため、心理学の研究はどのように実施されるべきなのか、検討や実践が重ねられています。例えば後から仮説を書き換えられないよう、まず専用のサイトに仮説を登録してからデータを取り、解析を進めるようにするなどの対策があります。
オープンサイエンスで、多様で公正な研究を
研究で使用したデータや解析コードを誰にでもわかる形で公表するのも有効です。研究者だけではなく誰もがデータや成果にアクセスできるようにして、研究プロセスの透明化をはかることを「オープンサイエンス」と呼びます。オープンソースやオープンデータを使うことで、所属や国の枠を超えた多様性のある協働が生まれ、公正な研究が可能となります。一般市民も含め、みんなで取り組む草の根活動的な研究が、心理学の領域においても一つのスタンダードになっていくでしょう。
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先生情報 / 大学情報
専修大学 人間科学部 心理学科 教授 国里 愛彦 先生
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