がんはどうやって転移する? 臓器を「耕す」エクソソームの謎に迫る
がんは特定の臓器に転移する
がんは特定の臓器に転移する臓器特異性があります。臓器特異性はがんを「種」、臓器を「土壌」だと考えるとわかりやすいです。例えばトウモロコシの種を世界中にまいたとしてもすべての土地で育つわけではありません。農作物ごとに適切な土壌があるからです。同じようにがんにも、適した土壌のような臓器があり、そこに定着するのです。
臓器を「耕す」エクソソーム
臓器特異性があるとわかっていても、がんに適した土壌ができる要因は130年以上不明でした。しかし2015年に発表された実験でがん細胞由来の「エクソソーム」がいち早く転移先の臓器に到着し、環境を変えていることが明らかになりました。エクソソームとは、すべての細胞から出ているナノサイズの小胞です。細胞の不要物を除去するゴミ処理機構として知られていましたが、2000年代になると細胞間のコミュニケーションツールとしても機能していることがわかりました。がん細胞が出すエクソソームは、正常な細胞に取り込まれるとその細胞の状態を変化させてしまいます。例えばマウスにがん細胞由来のエクソソームを投与して、それが肺に取り込まれると、肺に転移できない種類のがん細胞も肺に転移します。エクソソームによって肺の環境が変わり、がん細胞が住めるようになったからです。
先手を打つ治療を
がん細胞が臓器に到着する前に治療を始められれば、がん細胞の移動を抑制したり、臓器の環境を元に戻すことができると考えられます。転移先を特定する手がかりは、エクソソームに割り当てられた、いわば郵便番号です。エクソソームは細胞から受け取った分子を宛先の臓器に届けているため、その郵便番号を分析すれば転移先がわかるというわけです。
血液中のエクソソーム分布からがんの種類も特定できるので、出どころが不明ながんの治療にも役立ちます。また、エクソソームは自閉症や妊娠合併症にも作用しているため、研究が進めば幅広い病気を治療できる可能性があるのです。
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先生情報 / 大学情報
東京科学大学 理工学系(旧・東京工業大学) 生命理工学院 特定教授 星野 歩子 先生
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