情報工学技術を活用した「スマート創薬」でより多くの人々に治療薬を

情報工学技術を活用した「スマート創薬」でより多くの人々に治療薬を

情報工学技術で創薬の効率アップ

薬は人類の健康に多大な貢献をしてきました。例えばかつて不治の病とされたHIVは、ウイルスを抑え込む薬が開発されて、死亡率がこの20年間で87%低下しました。がんの死亡率も23%低くなり、患者の5年生存率も改善されています。
その一方で、新薬の開発には膨大な時間とコストがかかるため、希少疾患や、途上国の貧困層に多くまん延する「顧みられない熱帯病」の治療薬の開発は、資本主義経済においては困難です。そこで期待されるのが、シミュレーションやAIなどの情報工学技術を使った創薬の効率化です。

薬の「種」をAIで判別

薬と標的のタンパク質は、鍵と鍵穴の関係に例えられます。つまり、薬が標的タンパク質に結合することでその働きを止めるのです。創薬は、実在する化合物のライブラリの中から標的タンパク質に結合する「鍵」の候補を探すところから始まりますが、ここでタンパク質との結合しやすさを評価するシミュレーションを活用します。評価の高い化合物からピックアップしてくれるので、薬の候補を効率よく絞り込めます。
もっとも、シミュレーションも完全ではありません。評価が高くても生化学実験を行うと実際には結合しないことや、反対に結合するのに低い評価がついてしまうこともあります。そこでさらに、創薬化学者の「経験」や「勘」をシミュレーション画像から視覚的に適切な化合物を判別するAIを開発し、生化学実験での精度を上げます。こうして選ばれた薬の種は創薬の次のステップへと進みます。

薬の「種」をAIで生成

一方で、薬の種となりうる化合物を一から生成するAIのモデルも開発されています。このモデルを使えば、タンパク質への結合しやすさだけでなく、細胞膜を通過できるなど薬としての適性や毒性がないことといった条件も同時に満たす化合物の生成が可能です。AIの生成した化合物が実際に合成できるとは限りませんが、そうした課題をクリアして、創薬への実用化をめざした研究が続いています。

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東京科学大学 理工学系(旧・東京工業大学) 情報理工学院 情報工学系 准教授 関嶋 政和 先生

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理系をめざす人にとっての一番重要な素養とは、好奇心だと思います。それは科学への好奇心に限らず、例えば昨日と今日の変化、気温や植物の成長など日常的な変化に気づく好奇心を持ってほしいです。研究においては、なぜこのような結果になったのか、この差はどこから出るのかといった変化を気にすることが、何らかの発展につながっていきます。そして自分の研究対象を好きになってください。好きだと小さな変化にも気づきやすくなります。日々好奇心を持ちながら、好きなことを増やしていってほしいです。

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