花粉症対策の切り札! DNA解析で、効率よく「無花粉杉」を増やす

花粉症対策の切り札! DNA解析で、効率よく「無花粉杉」を増やす

花粉を飛ばさない杉もある

杉は成長が早く、生育適地が広く、育林技術も確立されていることから、花粉症が問題となっている現在でも日本の重要な造林樹種です。そのため、私たちは、これからも杉と上手に関わっていく必要があります。杉には約5千本に1本の割合で、花粉を飛ばさない「無花粉杉」が存在します。無花粉杉は父親と母親の両方から「花粉を作らない」遺伝子を受け継いでおり、雄花からは花粉を出しませんが、雌花は正常に機能しています。一方、片親からのみ無花粉杉の遺伝子を受け継ぐと、花粉は出しますが、潜在的に無花粉杉の遺伝子を持った杉になります。両者を掛け合わせると約50%の確率で無花粉杉が生まれます。従来、無花粉杉の苗を生産するには、母親となる無花粉杉は地道に花粉が出ない杉を探し、父親となる杉(潜在的に無花粉杉の遺伝子を持った杉)は無花粉杉との交配を行い成長した子どもの杉に無花粉杉が出現するかを丹念に調べていました。

無花粉杉を増やすには

DNA解析が進んだ結果、無花粉杉の遺伝子は花粉を作る遺伝子の塩基配列の一部がなくなったもので、ここを目印に識別できることがわかりました。芽生えたばかりの葉を調べるだけで無花粉杉の遺伝子の有無を判別できるため、成長を5年待たなければならなかった潜在的に無花粉杉の遺伝子を持った杉(無花粉杉の苗を生産する際に父親となる杉)の探索が、芽が出たばかりの杉の葉からもできるようになったのです。成長に時間のかかる樹木では画期的な技術です。現在は、この識別法により、全国各地から無花粉杉の遺伝子を潜在的に持った杉を増やしています。

花粉症対策は始まっている

既に一部の地域では少しずつ無花粉杉の供給が進められています。杉には種苗の移動制限もあることから、地域ごとに種子生産に用いる優良な親個体を作ることも並行して行われています。DNA解析によって優良な親個体を作り出すための素材が増えれば、効率よく無花粉杉を生産することができるようになるのです。

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新潟大学 農学部 農学科 フィールド科学人材育成プログラム 准教授 森口 喜成 先生

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今はインターネットを介してさまざまな情報を集められますから、自分の将来をイメージして進学先を考えておきましょう。まだ細かい分野まで決められなくても、早い段階から将来に思いをはせておくことで、自分のやりたいことを明確にしやすくなるでしょう。新潟大学農学部には、生態系管理や野生動植物の保全などの現場で活躍できる人材を育成するプログラムや森林管理に携わるフォレスターを育成するプログラムがあります。興味があるならぜひ一緒に学びましょう。

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