口腔ケアの意識を高め、地域の健康の底上げを
予防歯科が浸透する一方で口内環境の格差も
むし歯菌は糖を代謝して酸をつくり歯を溶かし、むし歯を作ります。歯の表面は硬いエナメル質で覆われているのですが、生えたばかりの歯のエナメル質はこの酸に対して弱い状態です。そこで歯磨きのほかにエナメル質を強くするためにフッ化物の塗布や洗口によるサポートが必要になるのです。こうした予防歯科の考え方が一般的になったことで、日本人の口内環境はよくなりました。一方で、むし歯が多く、治療もしないままにしている場合も見受けられ、格差が広がっていると言えます。
口内環境の悪化が糖尿病につながる
口内環境を悪いままにしておくと、痛みや歯が抜けた影響で食事がしにくくなります。そうなると野菜や肉類を避け、軟らかいご飯やパン、うどんといった炭水化物ばかり好んで食べるようになるようです。これは糖尿病の発症や悪化のリスクになるとされています。また、糖尿病になると唾液の量が減る傾向があるため、口の中の汚れを洗い流す作用が弱まり、むし歯になりやすくなります。さらに糖尿病は歯周病とも相互に影響するとも言われています。このように口内環境と糖尿病をはじめとした全身の健康には密接な関係があるのです。
口腔ケアは本人だけの問題ではない
口内環境が悪い人は口のにおいも強く、高齢になり介護が必要になったとき、介護者の負担となります。またにおい対策のためだけでなく、口の中の細菌が気管支や肺に入ると肺炎の原因となるため、口の中が汚れていると肺炎のリスクが高まると言われています。こうしたさまざまな点から高齢者に対する口腔ケアの意識は年々高まっており、現在では歯科医以外の医師や看護師、介護士といった多職種で連携して高齢者の健康を守っています。
このように歯科(歯学)は治療の学問だけではありません。年代ごとに目的は異なりながらも、口の中と全身との関係を明らかにし、そのケアを実践することで地域の健康の底上げを行い、あなたが健康に過ごすことができる社会をめざしています。
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先生情報 / 大学情報
新潟大学 歯学部 口腔生命福祉学科 教授 濃野 要 先生
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