「胥吏」~科挙官僚の陰の存在

表舞台には現れない存在「胥吏」
隋から清まで約1300年間続いた中国の官僚登用試験を「科挙」といいます。幼児期から一族の希望を託され、財をつぎ込んで英才教育を受け、1000倍とも言われる競争率を勝ち抜いてこの試験に合格した官僚たちは、政治をつかさどったスーパーエリートです。
一方、その陰にいた「胥吏(しょり)」という存在はあまり知られていません。胥吏とは書類の作成や帳簿の管理を行う事務職で、官僚を補佐して役所を運営する仕事を担っていました。いわば「下働き」の身分であったため、胥吏についてはまとまった史料が残っていませんが、中国の政治・社会を考える上ではとても重要な存在です。
科挙官僚を支えているのに評価されない?
中国の科挙官僚が地方官となる際には、自分の地元ではなく縁もゆかりもない土地に配属されました。そこで仕事を行うためには、その地方で採用され、現地の事情をよく知る胥吏の協力が不可欠でした。彼らの計算能力や書類作成能力、幅広い知識なしには、科挙官僚は地方を治めることは出来なかったのです。
しかし、科挙官僚が残した文章には、その胥吏をいやしむ言葉が並んでいます。例えば、「胥吏は民衆から賄賂を取ってばかりいるので、厳しく取り締まらなければならない」など。これはどういうことなのでしょうか。
中国の競争社会の象徴
高い読み書き能力や行政の知識を持つ胥吏の中には、科挙の受験に失敗し官僚になれなかった人々が含まれていると考えられます。また、胥吏の地位はお金でやりとりされることも多く、商売などで成功した者が胥吏の身分を買って特権を獲得することもありました。こうした胥吏たちは、競争を勝ち抜いたエリートである科挙官僚から見れば「敗者」や「成り上がり者」です。確かに庶民を虐げる胥吏も多くいたようですが、それに加えて科挙官僚の胥吏に対する見方が、さきほどのような言葉の背景にあったのです。胥吏という存在や、科挙官僚の胥吏に対する見方には、厳しい競争社会である中国の特徴が現れていると言えるでしょう。
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別府大学文学部 史学・文化財学科 教授宮崎 聖明 先生
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