新たな文字で国家の威厳を示す モンゴル帝国のパスパ文字
新しい文字
13~14世紀に中国を支配していたモンゴル帝国は、命令文書などを記す際に「パスパ文字」を使用していました。モンゴルは、もともと自国の文字を持っていなかったため、チンギス・カンの時代には、ウイグル文字を使ってモンゴル語を書き記すように命令を出しています。しかし、クビライ(フビライ・ハン)の時代になると支配する地域が広がり、モンゴル大帝国が築かれました。地域ごとに違う言語や文字が使われているのは非常に不便であることから、クビライがチベット仏教の高僧パクパ(パスパ)に命じて、パスパ文字が作られたのです。
国家の威厳
パスパ文字は、モンゴル語の表記にならって、縦書きで左から右に読むことが大きな特徴です。また、日本語のカタカナにあたる、地域ごとに違う言語を表せる表現方法であり、子音を表す形と母音を表す形をくっつけて、いろいろな音(言葉)を表せるようになっていました。そのため、パスパ文字を使って中国の言葉を表したパスパ文字漢語のほか、パスパ文字モンゴル語、パスパ文字トゥルク語なども、歴史資料として残されています。
モンゴル帝国では、公的な命令はすべてパスパ文字で表記することとされていました。学校を作って、パスパ文字を書ける人を養成していたほどですが、一般の市民はまったく読むことができないので、命令文書にはそれぞれの地域で使っている文字でも併記されていました。パスパ文字を書くことで、自らの支配下にある他民族に対して、彼らと自分たちは異なるということを明示し、国家の威厳を高めていたと考えられます。
歴史の流れとともに
支配のために作られた文字であったことから、モンゴル帝国が崩壊してしまうとパスパ文字も衰退していき、その後も朝鮮や明などでしばらく使われましたが、徐々に使われなくなっていきました。中国では、モンゴル帝国が支配する前の遼、金、西夏でも、それぞれに独自の文字が作られており、地域の歴史資料の文字の変化を追うことで、支配の流れを垣間見ることができます。
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明治大学 文学部 教授 櫻井 智美 先生
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