歴史に埋もれた庶民の暮らしを知る アーカイブズ学の重要性

歴史に埋もれた庶民の暮らしを知る アーカイブズ学の重要性

庶民の暮らしを探るには?

歴史研究の多くは有名な権力者や文化人にスポットを当てています。歴史学では史料を頼りに歴史を再構成していくため、記録に残されていない庶民の生活などは研究対象にできなかったのです。しかしこれまで記録がないと思われていた人々の暮らしも、現地におもむいて調査するなかで史料が発見される場合があります。現地の人々から何の価値もないと思われていた文書を歴史研究者が分析するうちに、過去の暮らしや文化が浮かび上がってくるのです。

記録の価値を再発見する

例えば、西南中国の農村に残っていた18世紀の契約文書からは、庶民の間に文字文化が普及していく様子がわかりました。上海などの江南地域から木材の買い付けにやってきた商人と取り交わした文書などが残されていたからです。もともとの西南中国には文字で記録するという文化をもたない民族も多数存在しました。しかし、交易のためにほかの地域から訪れた商人たちと交流するうちに、文書を取り交わし、自分たちに不利にならないように契約する必要性が生じたと考えられます。当初は交易に関する契約文書のみでしたが、村の歴史や家系図など、さまざまな情報を文字として残す文化が根付いていきました。

歴史に埋もれた記録を次世代につなぐ

しかし、1990年代頃には、必ずしも現地の人々から重要視されていませんでした。何度も現地を訪れ、村人から話をうかがうなかで、史料の重要性も浮かび上がってきたのです。こうした交流がなければ文書自体が埋もれ失われてしまっていたかもしれません。時が経つにつれて、「内容がよくわからないから」と、現地の人々に顧みられなくなってしまうこともあります。現代に残されているさまざまな記録を掘り起こし、次世代に伝えていくことを目指すのが「アーカイブズ学」です。記録に目を向けその価値を明らかにしていくことは、歴史研究にとっても重要です。記録をつうじて従来の歴史学ではこれまで光をあてられることのなかった庶民の歴史を理解することが可能となるからです。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

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先生情報 / 大学情報

学習院大学 文学部 史学科 教授 武内 房司 先生

学習院大学 文学部 史学科 教授 武内 房司 先生

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歴史学、アーカイブズ学

メッセージ

相互に交流するなかから新しい文化が生まれる可能性があることを知ってほしいです。そうした異文化への関心や尊敬は、歴史を研究するうえでも大切です。また、現代にももっと関心をむけてもらえればと思います。例えば現代の日本人の生活は外国から来ている多くの人々によって支えられています。異文化との接触やそこから生じる問題は過去の話ではなく、現在進行形で起きていることでもあるのです。歴史を考えるときに大切な視点も養われるので、身の回りの問題に敏感になってほしいです。

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