動物園育ちの動物を、野生に返せるか? 決め手は腸内細菌
動物園の役割が変化
動物園は変わってきています。動物をおりに閉じ込めず、生息環境を再現した中で本来の姿を見てもらう「生態展示」が増えてきました。絶滅危惧種や希少な動物を保存する役割も持つようになり、さらに個体数を増やす取り組みも進んでいます。しかし今ではウガンダの野生チンパンジーより、アメリカにいるチンパンジーの方が個体数が多いぐらいです。そこで欧米では、チーターなどの動物園飼育個体を生息地に野生復帰させる事例も出てきました。動物園が地球規模の課題解決に積極的に関わるようになってきているのです。
個体=細胞+腸内細菌
野生復帰と言っても人間に飼われた動物は野生の状態とはまったく違い、特に大きく違うのは腸内細菌です。動物の個体は細胞だけでなく、腸の中にすみ着いている微生物、細菌も含めて個体ととらえる「超個体」という考え方が広まっており、動物が生きていくために重要な腸内細菌全体の働きはとても複雑です。
例えば動物園育ちのゴリラの腸内細菌は、食塩や抗生物質への抵抗力が高かったりします。人間と同じような食事をし、治療もうけているからです。しかしゴリラの本来の食事は野生の植物の葉や果実などで、必要なのは塩に強い体ではなく、毒を含む野生の葉や果実を食べても平気でいられる体です。腸内細菌を変えないと野生に返しても生き残るのは難しいです。
野生で生きるための腸内細菌
生まれてきた子どもが生存に必要な腸内細菌を得るために行う方法は、母親のフンを食べることですが、何世代も動物園で育つと母親もそうした菌を失っている場合があります。このため、動物園生まれの子どもの「野生の体づくり」を助けるために、さまざまな腸内細菌のカタログを作り、ストックしていく研究が進んでいます。動物園で動物を育てるなかで野生に返す準備のための餌や、必要な腸内細菌、特に乳酸菌、それらを子どもに与えるタイミングを伝え、腸内細菌も子どもの腸内で育ててもらうのです。ライチョウの保護増殖でも成果が出てきており、まもなく野生に返せるようになるでしょう。
参考資料
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先生情報 / 大学情報
中部大学 応用生物学部 環境生物科学科 教授 牛田 一成 先生
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