その検査や治療は、本当にあなたの健康や幸福に役立つの?

その検査や治療は、本当にあなたの健康や幸福に役立つの?

命を脅かさないがんもある

がんは命にかかわる病気です。日本人の死因第一位でもあるため、がんによる死亡者数を減らす取り組みとして、早期発見・早期治療を目的にしたがん検診が行われています。医学の進歩とともにCTやMRI、腫瘍マーカーなど、画像や血液による診断学も著しい進歩を遂げ、症状がなくてもがんを発見できるようになりました。
ところが、がんの中には、体内にできてもまったく支障がなく、命にかかわらないものも存在しています。生涯にわたり症状を出さず、放っておいても死なないがんが、検診によって見つかることもあるのです。これを「過剰診断」と言います。

過剰診断により多くの不利益が生じる

過剰診断は、特に進行がゆるやかながんで高率に起こると考えられています。しかし、進歩した現代医学においても、どのがんが進行して、生命予後に影響を及ぼすのか、または及ぼさないのか、区別することはできません。がんが見つかれば、早期治療の考えに基づいて検査や手術が行われます。しかし過剰診断の場合は、診断されなくても健康に影響しない病気なのでその診断や治療が体や心に負担となります。例えば手術による合併症、抗がん剤治療によるQOL(生活の質)の低下、治療費の問題など、さまざまな不利益を被ってしまうのです。がんの告知は本人にとって心理的に大きな負担となります。

検診の不利益を知る必要がある

がん検診は良いことだと思われており、がんの種類によっては過剰診断が高頻度で発生することやその少なくない不利益を多くの人が認識していないでしょう。世界の医療現場では前立腺がん、乳がん、甲状腺がんは、過剰診断が起こりやすいがんとして検診の方法が問題視されています。過剰診断を減らすためには、命にかかわらないがんについての研究が進むとともに、人々が検診における不利益についても理解し、検査や治療の必要性を正しく判断できる環境づくりが求められています。

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宮城学院女子大学 生活科学部 食品栄養学科 教授 緑川 早苗 先生

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メッセージ

高校までの学校生活はほとんどが集団行動のため、協調性が必要です。あなたも今はそういう雰囲気の中で学んでいることでしょう。しかしその意識のままでは、大学では多くを学べません。自発的に調べ学び取る意欲と、世の中の共通認識に対して科学的見地から妥当性を評価する力が、大学の学びには不可欠です。
自分の考えをしっかりと持ち、そこから結論を導き出す、という練習を、ぜひ普段の生活の中で実践してください。その連続が、将来を決める場面で役立つと思います。そして、きっといい出会いにも恵まれるはずです。

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