匂いと、心と体の深い関係とは
匂いは古い記憶も鮮明に呼び起こす
心の成り立ちや記憶の謎を解き明かすのに、匂いはとてもいい題材です。嗅覚と心と記憶は、脳の最も原始的な領域、大脳辺縁系で処理されており、互いが密接に結びついています。しかし、なぜ特定の匂いが心を動かすのか、記憶に強く関係するのかなど、まだわからないことも多いのです。これらがわかれば、心の問題で苦しむ人が、匂いで心の健康を得られるようになるでしょう。心は昔の大事な記憶に支えられており、匂いは記憶を呼び起こしてくれるのです。
匂いは心だけでなく体への影響も大きい
嗅覚は脳と体をつなぐ大事な感覚です。まず、匂いの感じ方は常に同じではなく、体の状態によって変わります。例えば、空腹時に揚げ物の匂いを嗅げば食欲を感じますが、満腹時にはそうはなりません。匂いを心地よく感じるには体の健康が必要です。逆に、匂いで体の健康を達成できるのではないかという研究も進んでいます。また匂いは、体を癒やすだけではなく、運動機能にも影響します。例えば、運動障がいのある人が調理をするリハビリを行った際、包丁で材料を切る作業より食材をフライパンで炒める作業のほうが、食材の匂いをより強く感じて運動機能が増します。食べ物の匂い、特に醤油やソースなどの香ばしい匂いは、体の動きを良くするのに効果的なのです。
安らぐ匂いのオーダーメイド
研究では、マウスに匂いを嗅がせながらいろいろな経験をさせます。もともと意味のない匂いでも、いい経験と共に嗅げば好きになり、嫌な経験と共に嗅ぐと嫌いになります。匂いと心や記憶との関係は生まれつきではなく、匂いの良し悪しは、嗅いだ時にした経験から後天的に学んでいるのです。ですから、ある人は花の匂いに安らぎ、ある人は自宅の匂いに安らぎます。「安らぐ匂い」は人それぞれなのです。
今後、医療はオーダーメイドの時代に入ります。匂いについても、自分や状況に最適なものを探して利用することが必要となっていくでしょう。匂いで幸せを作る研究は今も進んでいます。
※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。
※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。
先生情報 / 大学情報
高知大学 医学部 医学科 教授 山口 正洋 先生
興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!
医学、生理学先生が目指すSDGs
先生への質問
- 先生の学問へのきっかけは?
- 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?