超難解な流体力学を数学的に解析、新たな定理の発見へ!
理想流体の運動方程式 「オイラー方程式」
数学の世界には、ミレニアム問題と呼ばれる7つの難問があります。アメリカのクレイ数学研究所によって100万ドルの懸賞金がかけられており、この中の1つが19世紀半ばにアンリ・ナビエとジョージ・ガブリエル・ストークスによって定式化されたナビエ・ストークス方程式(以下NS方程式)です。NS方程式とは、大気や水など粘性のある流体の運動を記述する方程式ですが、この方程式に解が存在するのか? また、解が存在するならばどのような振る舞いをするのか?など、数学的にわからないことが多くあります。
この粘性流体を対象にしたNS方程式に対して、粘性を持たない理想流体の運動を記述したものがオイラー方程式です。オイラー方程式はNS方程式より100年前の18世紀半ばにレオンハルト・オイラーにより導かれた方程式で、この方程式についてもNS方程式と同様、未解明の問題があります。
渦のつくる結び目
19世紀半ばになると物理学者の間で、流体の渦の運動が研究され始めました。当時、物質はエーテルというものでできていると考えられており、ケルヴィンは原子がエーテルの結び目であるという仮説を立てました。ケルヴィンは結び目の表を作り元素を調べようとしましたが、メンデレーエフによる元素周期表が現れ、この仮説は廃れてしまいます。しかしその後、結び目は数学者の興味を引き、結び目理論と呼ばれる数学の一分野が発達しました。またケルヴィンは、渦がつくる結び目をオイラー方程式の解により表すことを考えました。この問題はケルヴィンの予想と呼ばれる、偏微分方程式の問題です。
新たな定理の発見へ
ケルヴィンの予想は進行波と呼ばれるオイラー方程式の特殊解に関係しています。進行波は水面を伝わる波の運動などで現れますが、オイラー方程式については未解明であることが多くあります。進行波を調べることにより、オイラー方程式が記述する解の様子を一部調べることができるのです。
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先生情報 / 大学情報
大阪公立大学 理学部 数学科 准教授 阿部 健 先生
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