河川の水は田んぼを通っている? 環境を守る田んぼの役割

河川の水は田んぼを通っている? 環境を守る田んぼの役割

田んぼに溜まった水は重さが違う?

米作りには大量の水を必要とするため、雨水だけでは足りず、河川から水田に水を引き入れています。ただし、水を張るのは害虫や稲の病気対策のためで、大部分の水は、地下に浸透するなどして、再び河川に戻ります。水田を経由した水とそうでない水でほとんど見分けがつきませんが、ほんのわずかに重さが異なります。水は水素と酸素の化合物ですが、雨水の中には水素、酸素ともに重さの異なる同位体が混じっており、地表に落ちた後、軽いものが先に蒸発します。特に水田では水がとどまる間蒸発が起こるので重い水が残りやすく、この特性を利用して河川を調べると、水田を経由した水が相当多いことがわかります。

水田は水源でもある

時には河川の水の大部分が水田に引き入れられることもありますが、その水のほとんどは少しずつ河川に戻っていき、降雨が無いときにはこの水が河川の貴重な水源となって水量を維持して水生生物を守り、また下流にある水田の用水としての役割も果たしています。つまり、山から河口まで水田が広がっている地域では、上流で水田面積が減ると、下流の水田で水不足となってしまう可能性があります。例えば、近年経済成長が著しいインドネシアでは、山村で労働力が流出し、多くの農地が宅地や工業地などに作り変えられています。同様の傾向にある途上国は多く、そうした国では山村の水田が減ることで、下流でも米が作れなくなってしまうのではないかと懸念されます。

農地減少が環境に与える影響

水田の減少は人間だけの問題ではありません。例えば兵庫県西部や和歌山県北部、大阪府南部はトンボの宝庫ともいえるほど、絶滅危惧種も数多く生息しています。この辺りは農地が多く、トンボの生息に適したため池が点在していたからです。しかし、農地が減少し、ため池も埋め立てられています。メダカやドジョウの生息に適した河川や用水路も、全国的に減少しています。農地減少は作物生産の観点からだけでなく、環境や生態系への影響も考えていかなければならない問題なのです。

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大阪公立大学 農学部 緑地環境科学科 准教授 中桐 貴生 先生

大阪公立大学 農学部 緑地環境科学科 准教授 中桐 貴生 先生

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農業土木学、農村計画学、農業農村工学

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メッセージ

なぜ河川から田んぼに水を引き入れるのか、どうしてため池が作られているのか、その土地に住む人はどういう意図を持ち水の流れをコントロールしようとしているのかなど、世の中には学校では習わないことがたくさんあり、日常の知識がないと問題解決が進まないことがあります。
広い視野を持つためにも、たくさんの人と交わり、自然と接し、ひとりの人、あるいは生物として生きることを心掛けましょう。水と環境を取り巻く問題はスケールが大きく、ひとりの力でなんとかできるものではないだけに、多くの人のアイデアが求められています。

先生への質問

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2022年4月、大阪市立大学と大阪府立大学が統合し、大阪公立大学が誕生しました。大阪市立大学、大阪府立大学は共に約140年の歴史ある大学であり、水都として交通の要衝であった大都市大阪とともに発展してまいりました。この地の利を生かし、理論と実際を有機的に結合することにより、両大学は大都市大阪で生活する人々が必要とする精神文化の発展や産業と経済の振興を担う中心機関としての役割を果たしてきました。本学はさらなる異分野を融合・包摂した新たな学問の創造と多様な世界市民の育成を目指します。