転換期を迎えた河川の水害対策~地域の総力を結集する流域治水とは

転換期を迎えた河川の水害対策~地域の総力を結集する流域治水とは

「解けたら1億円」の懸賞方程式を使う

水害防止のためには、雨が降ったときに川の水量や流れ方がどのようになるか、堤防の決壊はどのように起きるか、などを、コンピュータのプログラムを使ってシミュレーションする手法が一般的です。このシミュレーションプログラムのベースには、「ナビエ・ストークス方程式」という、水の物理特性に関する計算方法が使われています。この方程式は、解けた人にはおよそ1億円の懸賞金が与えられることになっている未解決の問題なのですが、コンピュータを使って近似値解を出し、河川のシミュレーションに応用する研究が行われています。

田んぼや街の構造も使って雨水を制御

河川の水害対策は、転換期にあります。地球温暖化による気候変動が進み、降雨パターンが変わったり降雨量が増大したりして、従来のやり方では雨水の制御が追い付かなくなっているからです。そこで注目を集めているのが、「流域治水」という考え方です。これまでは河川の中だけで降雨をコントロールする方法でしたが、河川の流域全体で降雨を処理しようという考え方です。流域内にある田んぼや市街地全体で、雨水をためようというものです。河川は国などの管轄ですが、農地や市街地は民間のものです。そのため、水害対策に民間の協力が不可欠です。2021年に、民間の協力を得られるような法整備も行われました。

地域の総力を結集

流域治水では、田んぼや市街地にはどのくらいの水をためられるかなど知識を出し合い、それを先に紹介したプログラムに反映させ、地域ごとにシミュレーションを行うことが重要です。それには、行政や農家、地域の建設コンサルタント、河川工学や農学の専門家など、地域の総力を結集させます。
こうしたシミュレーションに基づいて作成したハザードマップから、避難シミュレーションゲームを作成する研究も行われています。住民がゲームで避難を体験することにより、意識を高め、問題点を行政と住民とで話し合うきっかけになると期待されています。

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静岡理工科大学 理工学部 土木工学科 教授 松本 健作 先生

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水理学、河川工学、土木工学、防災工学

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メッセージ

世界はいろいろなものでできています。国語、数学、理科、社会、すべての教科書は、世界というゲームの取り扱い説明書のようなものです。過去の偉人たちの発明・発見が積み重なったものが、教科書なのです。物理、化学、生物など、科目で分断しがちですが、1歩踏み出せば世界にはそのような境界はなく、すべてが融合していますので、1つの方向からしか見ないのでは、あまりにももったいないと思います。
いま、世界はいろいろな問題を抱えていますが、そんなときこそ、若者の新しいアイデアが採用されるチャンスです。頑張ってください。

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静岡理工科大学は静岡県西部の袋井市にキャンパスがある、私立の理工系総合大学です。
理工学部(機械工学科・電気電子工学科・物質生命科学科・建築学科)と情報学部(コンピュータシステム学科・情報デザイン学科)を有し、2020年にはデータサイエンス専攻を開設しました。
さらに2022年4月には理工学部に「土木工学科」を新たに開設。
社会のニーズに応えるべく、常に変わりつづけ、地域社会で活躍する技術者を育成する大学です。