過酷な地か、楽園か? 南極地域観測隊とストレスの関係

過酷な地か、楽園か? 南極地域観測隊とストレスの関係

家族や知人もいない極寒の地で過ごす1年

南極大陸にある日本の昭和基地には、現地調査のための南極地域観測隊が、越冬隊の場合1年にわたって滞在します。観測隊は南極という閉鎖環境の中で、同じメンバーと1年間を過ごすのです。日本と違って四季はなく、外は平均氷点下10度、最も低いときで氷点下40度という極寒です。極夜といって太陽がまったく昇らない時期もあります。家族と遠く離れて、娯楽は少なく、周囲の変化も少ない状況だと体内時計が狂い、ストレスも増えるでしょう。しかも、体調を崩してもすぐには帰国できません。

多くの人が体調を崩しがちなのは滞在期間の後半

10年にわたり、観測隊の方々に心理学調査に協力してもらった結果、隊員が最もストレスを感じる時期が「第3四半期」に集中していることが判明しました。第3四半期とは、1年を3カ月ごとに4分割して3番目に当たる時期、つまり後半の始まりに当たる時期です。厳しい選抜試験や訓練が課せられる宇宙飛行士と異なり、南極地域観測隊は調理人や、建築や通信技術の専門家など、それまで普通の生活を送っていた人々が抜てきされるケースがあります。いろいろな立場の人が集まっているのが観測隊の特徴であり、それぞれの個性が切磋琢磨されたり、時にはぶつかりあったりすることもあるでしょう。

日本より南極が肌に合う隊員もいる?

確かに南極大陸は過酷な自然環境で、長期間滞在することはとても大変です。しかし、南極から日本に帰国した後に、逆に体調不良を訴える隊員のケースも報告されています。極端に人間が少ない南極での生活は、人間関係のしがらみなどから解放され、自由に振る舞える環境ともいえるのです。コンビニもなく、流行の物も手に入らない生活は不便に思えるでしょうが、ないからこそ創意工夫をする楽しみがあります。30人ほどの観測隊はひとりひとりの裁量が大きく、仲間から常に頼られる環境、すなわち「自己肯定感」が高まる環境といえるでしょう。一部の人にとって南極大陸は、癒やしの地にもなり得るのかもしれません。

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大阪公立大学 現代システム科学域 心理学類 准教授 川部 哲也 先生

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メッセージ

心理学に限らず、学問はやればやるほどわからないことが増えていきます。ひとつ新しいことが判明したら、その先にまたわからないことが出てきます。人間の心についてはわからないことだらけで、ゴールがないとも、ゴールが無数にあるともいえます。わからないことに立ち向かう行為に楽しみを見いだせる人は心理学に向いています。
そして、さまざまなことに疑問を持ちましょう。特に常識に対しては常に疑いの目を向けてください。「その常識は一理あるけど、本当かな?」という姿勢を持ち続けてほしいと思います。

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