生命の謎に迫る、ABO式血液型遺伝子の研究
赤血球の表面にある型物質の違いで血液型が決まる
ABO式血液型は、赤血球の表面にある型物質(糖鎖)の違いをA、B、O、AB型と分類しています。献血に行くと、少量の血液を採取して血液型を調べますが、抗A抗体と抗B抗体という2種類の試薬に血液をそれぞれ加えて固まるかどうかを観察します。この検査は「おもて検査」と呼ばれています。
B型なのにO型?
実は「おもて検査」だけでは正しい血液型がわからない場合があります。その1つが日本人に多いBm型です。このBm型は、本来はB型なのですが、赤血球のB型物質の量がほとんどなく、おもて検査ではみかけ上「O型」と判定されてしまうのです。なお、輸血では「うら検査」と呼ばれる血漿(けっしょう)の検査なども行われるため、きちんとB型の血液として取り扱われます。
ヒトでABO式血液型物質がつくられる場所は、「骨髄」と、唾液腺や胃粘膜などの「粘膜・腺上皮」の2カ所です。このBm型は、粘膜・腺上皮ではきちんとB型だと判明するのですが、赤血球では一見してB型だとわからないという奇妙な特徴があります。この原因は、ABO遺伝子のコピー(転写)に必要である、骨髄で働くスイッチ(エンハンサー)に大きな穴が空いており、赤血球系細胞においてB遺伝子がコピーされていないためです。
Bm型から推察される進化の過程
Bm型の特徴は、ニホンザルと似ています。ニホンザルは、赤血球の表面にはABO式血液型物質がなく、粘膜・腺上皮には血液型物質があります。一方、類人猿であるチンパンジーでは、ヒトと同様に、どちらにも血液型物質が存在します。これは進化の過程で、最初は粘膜・腺上皮に型物質が作られ、次に赤血球に型物質が作られた証左ではないかと考えられています。
Bm型であっても、通常の生活を送ることが可能です。しかし、こうした研究を重ねていくことで、血液型の存在が生命活動にどのような影響を与えているのかがわかるかもしれません。血液型の遺伝子研究は、まさに生命の根源に迫る作業なのです。
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群馬大学 医学部 医学科 准教授 佐野 利恵 先生
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