磁力で羽根車を血液中に浮かべて回す人工心臓の開発

磁力で羽根車を血液中に浮かべて回す人工心臓の開発

拍動型から連続流型へ~変わる人工心臓~

人工心臓は、1958年に日本人の研究者によって研究がスタートし、以来、60年近い歴史があります。20世紀後半までは、「夢の人工心臓」と言われ、もともとの心臓と取り換える完全置換型をめざし、本物と同じ形状の拍動型の人工心臓の開発が進められました。しかし、これは、サイズや動力面に課題があることから、20世紀後半からは、羽根車を回して血液を送り出す連続流型の人工心臓の研究開発が始まりました。また、心臓の脇につけてポンプ機能を補助する補助人工心臓の研究も始まりました。連続流型は、拍動型のように人工弁が必要ない分、小型化が可能になります。ただ、羽根車を回す軸をポンプ内に留置する必要があるため、回転軸の接続部分で赤血球が傷ついたり血液が固まったりすることが課題となっていました。そこで、21世紀に入って、新たに開発が進んでいるのが、回転軸をなくして、「羽根車を磁力で血液中に浮かべるタイプ」の「磁気浮上型」人工心臓です。

ポンプの駆動を制御し、多様な用途に対応

この人工心臓は、電磁石の電流を制御して羽根車を浮かせることで、血液を傷つける回転軸がありません。また、電流を制御してポンプの駆動の仕方を変えることができるため、さまざまな目的に利用することができます。例えば、重症化が予想される患者の心臓につけて心臓の機能を補助して悪化を防いだり、弱った心臓につけて心臓のトレーニングをしたりすることもできます。

小型化とエネルギー効率の向上が課題

幅広い用途が見込めるこの磁気浮上型人工心臓ですが、課題もあります。ひとつは、サイズです。人体に埋め込むので、できるだけサイズを小さくする必要があります。特に、女性や子どもなど、身体の小さい人にも埋め込める小型サイズのものが求められています。もうひとつは、モーターのエネルギー効率を高めることです。身体に埋め込んだ人工心臓が42度以上になると火傷してしまうため、熱の発生が少ないモーターを開発することが課題となっています。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。

先生情報 / 大学情報

茨城大学 工学部 機械システム工学科 教授 増澤 徹 先生

茨城大学 工学部 機械システム工学科 教授 増澤 徹 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

医用工学、機械工学

メッセージ

機械工学科というと、自動車や工場の設備など産業機械について学ぶ学科だと思われがちですが、私は、人工心臓の研究をしています。人工心臓は、心臓の代わりに血液を送って人の命を助ける機械です。このように最近は、産業界だけでなく、医学など新しい分野でも、工学技術を応用して、我々の生活を支えることがエンジニアの役割となっています。
工学部では、将来の日本の技術を担うプロフェッショナルなエンジニアを育てようと教育・研究を行っているので、ぜひ、工学に興味をもって勉強してください。

先生への質問

  • 先生の学問へのきっかけは?

茨城大学に関心を持ったあなたは

茨城大学は、人文社会、教育、理、工、農の5学部からなる中堅的地方総合大学です。校地は水戸・日立・阿見の3地区に分かれており、各キャンパスとも学生を中心とした環境づくりを進め、教育研究施設の充実を図っています。幅広い教養教育と高度の専門教育により専門家として自立できる人材を育成するため、学部・大学院にて多様な学習の場を用意し、各分野で世界を先導する研究活動を推進しています。