講義No.12325 機械工学

見えないエンジン内の燃焼をイオンプローブで見る

見えないエンジン内の燃焼をイオンプローブで見る

エンジンの燃焼の様子

自動車に搭載されているエンジンは、ガソリンと空気を混ぜた混合気を燃焼させ、その爆発的な膨張を動力に変換する機関です。この時に、どのような燃焼が起きているかは、実は詳しくわかっていません。エンジンは密閉されているため、燃焼の途中で中を見ることが難しいからです。そのため、これまでは強化ガラス製の実験用のエンジンを目視で観察するか、圧力センサで測定した燃焼圧力から燃焼の様子を推測するしかありませんでした。

イオンプローブでの測定

エンジンの燃焼を知るために、炎がわずかに電気を通す性質に着目した新たな方法があります。燃焼させる空間の内壁の数十か所に、電気に反応するイオンプローブというセンサを設置します。燃焼反応では燃料の成分の一部がイオン化するため、炎が触れるとイオンプローブはイオンが橋渡しした微弱な電気信号を感知します。それを増幅して測定することで、各箇所に炎が到達したタイミングを分析できます。しかし、エンジンの中にイオンプローブをくまなく取り付けることはできません。そこで、イオンプローブのない部分は、測定された数値から炎の流れを数学的に割り出して推定しています。この方法により、ハイスピードカメラの100倍以上の速さで燃焼の状態を明らかにできました。

環境負荷要因の低減をめざす

現在のエンジンは、燃焼の際に放出されるエネルギーをすべて動力として使えているわけではなく、何らかの形で損失しています。多くの先進国は2030年半ばまでにガソリンエンジン車の販売をやめる目標を出しています。しかし、既に作られたガソリン車は走り続けるので、環境負荷要因となるエネルギーの損失を少なくする努力は、引き続き必要です。現在は自動車メーカーと協働し、イオンプローブを使った燃焼計測技術で実際のエンジンを測定し始めています。この方法は、将来的に飛行機用のジェットエンジンの測定や、火力発電・焼却炉などのモニタリングにも応用できると期待されています。

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広島工業大学 工学部 機械情報工学科 教授 八房 智顯 先生

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「Think Globally, Act Locally.」世の中の全体のことを考えながら、自分のできることは自分でやろうという意味の言葉です。まずは一通り自分でやってみる、実際に自分の目で確かめる、できることは精いっぱいやる、初めてを楽しむという気持ちを大切にしましょう。今はインターネットが発達し、他人がやったことが簡単に見られますが、自分でやってみなければ身に付きません。また、他人の方法が自分に合うとは限らないので、自分に合うベストな方法を模索しましょう。

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広島⼯業⼤学は、2025年4月に《情報》 《建築・建設》 《生命・環境》の3つの領域で新しい学びに取り組む12の学科・コースに再編。DX、GXなど、ビジネスや社会の変⾰に不可⽋な⾰新的な技術の学びや新しいことに“挑戦”できる機会が充実させ、新たな価値を創造することができる「未来創造力」を磨く新しい教育プログラム「HIT.E-ACTION」を実施しています。さらに、ものづくりの拠点である"Hiroshima Making Hub"が誕生。学生のアイデアを大きく広げる環境も整備しています。