希少な自然を後世に引き継ぐ 国立公園を守る「適正収容力」
生態系を壊す「オーバーツーリズム」
日本は国土が南北に長いことから、生物や景観の多様性があり、世界からも注目を集めています。最近では日本の自然を味わおうとたくさんの旅行者が訪れるため、その場所の自然環境や住民の生活に悪影響がもたらされる「オーバーツーリズム」も問題になっています。
だからといって、自然を守るために観光客を一切入れないようにすることで問題が解決するでしょうか? その自然の素晴らしさを多くの人に知ってもらわなければ、「守りたい」という動機も生まれません。
「適正収容力」を考える
大切なのは、どのくらいの観光客数なら生態系が守れるかという「適正収容力」の考え方です。特に希少な自然がある場所は、国立公園として法律で生態系が保護・管理されています。例えば、多くの人が歩いて植物が踏みつけられたとしても、よそから種を持ってきて植えることは、その場所の生態系を乱すため禁止されています。そのため、入場を許可できる限界を把握することが重要なのです。
1980年代から始まった適正収容力の研究の結果、適正人数を単純には割り出すことはできず、保全目標に基づく「順応的管理」が必要だとわかってきました。その場所ごとの綿密なモニタリングに基づいて人数制限などのルールを決めて、それを運用しながらさらに結果をフィードバックして微調整していく管理方法です。
観光客の満足度もアップ
この手法の成功例の一つが、知床国立公園です。野生のヒグマが出没することもある知床五胡では、生態系を調査した上で、観光業者や地元住民、行政など関係者が協議しました。そして、利用調整地区を設置して人数制限を設け、観光客には、事前のレクチャー受講とガイド同伴での行動を義務付けました。その結果、自然環境を守りながら、安全に野生動物や植物を観察できる場所として観光客の満足度も高まったのです。現在も継続的に生態系調査を行い、結果を運用と制度の改善にフィードバックして、貴重な自然を後世に引き継ぐ取組みが行われています。
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先生情報 / 大学情報
北海道大学 農学研究院 教授 愛甲 哲也 先生
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