「住みやすい町」をつくり環境を守ることが、これからの観光政策
環境に配慮しない観光政策は、長続きしない
「観光」は、地域にとって大きな収益となるほか、雇用創出にもつながる重要な産業です。しかし、多額の費用をかけ、テーマパークや大型宿泊施設などをつくったものの、それが景観破壊や住環境の悪化につながり、観光客も激減してしまった「失敗例」が多数あります。
世界的に見ても、環境に配慮しない開発のせいで、観光地としての魅力を失った地域は少なくありません。その地に住む人々の暮らしや、その地域ならではの環境を無視した観光政策は、結局は長続きしないのです。
世界遺産を観光スポット化するのは本末転倒
「世界遺産」として認定され、注目されるようになったばかりに、誤った観光政策に突き進んでしまった例もあります。世界遺産とは本来、その地に残された歴史的資産を後生に伝えられるよう、これまで以上に力を入れて保存しましょう、という制度のはずです。ですから、遺産の近くに環境を破壊するような観光客用の大きな駐車場をつくったり、展示館などの「ハコもの」をつくったりするのは、本末転倒なのです。
1990年代頃から人気が高まった、体験を中心とした農家泊の「グリーンツーリズム」も、観光客受け入れのために、農村の人々の本来の仕事ができないなどの問題があり、今では下火になっています。
成功する観光政策は、「まず住民ありき」
「まず住民ありき」が、これからの観光事業のキーワードと言えます。「住んで良い」場所は、「訪れても良い」場所のはずです。その好例が、長野県の小布施町です。ここではまず、若い世代が住みやすい住宅街や、草花いっぱいの景観をつくるなどで住みやすい環境を整備しました。また、この地にゆかりのある葛飾北斎の美術館など文化施設をつくったことで、現在は県内屈指の観光地としてにぎわっています。農家の手間がかからないように観光客を宿泊させ、その利益で農村を活性化させることによって、農村の環境を守ろうというドイツの「農家民宿」政策も、「まず住民ありき」の観光政策の成功例と言えます。
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