植物の驚異の適応能力! 「プラスティシティ」ってどんなもの?
環境の影響を受けて姿や形を変える植物たち
さまざまな植物の姿や形は、遺伝的な影響で決まると考えられがちですが、実は周囲の環境の影響も強く受けています。温度や光などの環境の変化により姿や形を変えることを「プラスティシティ(可塑性)」といいます。
例えば、フクロユキノシタという食虫植物は、「ピッチャー」と呼ばれる落とし穴のタイプの捕虫葉をつくり、そこに小動物(虫)を落として消化します。実はフクロユキノシタは、温度が低いときは通常の葉、温度が25℃以上になると補虫葉をつくるという特徴があります。なぜこのような現象が起こるのでしょうか?
なぜ温度で葉の形が変わるのか
温度が低いとフクロユキノシタの食料となる虫は活動していません。一方25℃という快適な温度になると、虫は活発に動き出します。つまりフクロユキノシタは、虫が飛んでいない期間は普通の葉をつくって光合成を行い、虫が動き出す温度では捕虫葉をつくって虫をつかまえるという、効率のよい栄養分の確保の方法を身につけているのです。こうしたフクロユキノシタのプラスティシティは以前から知られていましたが、どんなメカニズムで起こるのかは長い間謎のままでした。なぜならメカニズムを解明するためには、環境変化によってどんな遺伝子が発現しているかを調べなければばらないからです。
ゲノム解読でプラスティシティの謎に迫る
しかし、近年、遺伝子の設計図であるゲノムの解読が飛躍的に進み、プラスティシティの謎に迫れるようになってきました。フクロユキノシタに関しても、日本の研究チームが初めて全ゲノムの解読に成功しました。その結果、普通の植物が生体防御という「守り」に使用していた遺伝子を、フクロユキノシタは「攻め」の遺伝子に転じて虫の捕食に活用しているという興味深い事実などが明らかとなりました。こうした新たな発見の積み重ねによって、植物のプラスティシティのメカニズムの解明が進んでいるのです。
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東海大学 農学部 農学科 教授 星 良和 先生
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