求む、地域に根付いた魚のお医者さん
養殖魚や放流魚に見られる魚の病気
水産物の需要は世界的に高まっており、安定供給のためには養殖や放流が欠かせません。しかし養殖魚や河川に放流された淡水魚(川魚)には、人間や動物と同様に感染症が広がる可能性があります。例えば、養殖や放流に用いる稚魚(魚の子ども)を種苗(しゅびょう)と言いますが、種苗が何らかの細菌やウイルスに感染していると、養殖漁場内や河川で魚の病気、魚病(ぎょびょう)が広がります。特に過密な環境で魚を育てている養殖では魚病の広がりが早く、大量死につながりかねません。また河川に放流する稚魚が生き残る確率はそもそも低いうえ、魚病が流行すればさらに漁獲高が減り、放流にかかる費用対効果が小さくなってしまいます。
魚病もワクチンで防ぐ
養殖魚の代表格であるブリに、かつてレンサ球菌症と呼ばれる感染症がまん延し、大きな被害が出たことがありました。薬を開発して病気を抑えても、すぐに薬が効かない耐性菌が広がるという状況が繰り返されてきましたが、やがてワクチンで感染を予防できるようになりました。しかし、ワクチンに対する耐性菌も出始めていることから、新たなワクチンや薬の開発、また適切な投与方法などについて日々、研究が進められているところです。
地域に根付いた研究を
一方、魚病が広がる背景には、それぞれの河川や湾の環境特性、養殖や放流方法が関連していることもあります。もし魚が大量死するような事例があれば、現場で状況や原因を確認し、これ以上病気が広がらないようワクチンや薬などで適正に対処する、地域のお医者さんのような存在が必要です。地域に根付いた存在だからこそ、養殖業者など現場の人たちと情報交換しつつ、データに基づいたエビデンス(証拠)から最適な方法を講じて、魚病のまん延を阻止しなければなりません。これからも未知なる魚病が発生するかもしれません。私たちの食生活や水産業の安定を図るためにも魚病の研究は欠かせないのです。
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先生情報 / 大学情報
高知大学 農林海洋科学部 海洋資源科学科 准教授 今城 雅之 先生
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海洋資源科学、水産学、獣医学先生が目指すSDGs
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