放射線に強い太陽電池が宇宙開発の未来を担う 化合物半導体の研究
月面探査を可能にした太陽電池
2024年1月、JAXAの無人小型探査機「SLIM」が月面着陸に成功しました。SLIMは搭載された太陽電池から供給される電力で動いています。
太陽電池によるソーラー発電は現在生活の中のさまざまな場面で使われるようになっていますが、人工衛星などでは昔から使われている唯一のエネルギー源です。宇宙でのソーラー発電では放射線の影響による性能劣化が起きてしまうため、放射線に強い特別な材料を使う必要があります。また、修理に行くことができない宇宙空間で故障なく動作し続けられるような設計も必要です。近年民間の宇宙開発も盛んに行われるようになり、宇宙用ソーラー発電が注目を集めています。
化合物半導体での多くのメリット
地上用の太陽電池は主にシリコン(ケイ素)が使われています。しかし、放射線を浴びるとシリコンの結晶が壊れ、発電能力が低下します。
そこで、シリコンという単一の元素ではなく、ガリウム・ヒ素に代表されるような、2つ以上の元素を混ぜた「化合物半導体」が開発されています。化合物半導体は放射線に強いだけでなく、発電効率が高い、光の吸収が大きいので薄くできて曲がった形状も可能など、多くのメリットがあります。SLIMに搭載されたのは、化合物半導体を3種類重ねた厚さ15ミクロン程度の発電効率の高い太陽電池で、日本が世界で初めて実用化に成功したものです。
原子炉のセンサーへの応用
なぜ半導体材料の違いによって放射線耐性に違いが出るのか、そのメカニズムは実はまだよくわかっておらず、その解明が進められています。そのしくみがわかれば、もっと良い材料を探すことができると期待されます。
また、この化合物半導体を放射線計測のセンサーに応用しようという研究も進んでいます。原子炉では膨大な量の放射線が発生しますが、現在使われている放射線計測機器は高額で大きく、このような場所では活用できません。そこで、放射線に強い太陽電池をセンサーに使って原子炉をモニタリングする装置の研究も進められています。
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