生物多様性が人々の暮らしに与えるメリットを考える

生物多様性が人々の暮らしに与えるメリットを考える

これだけある、街路樹の機能

高山や熱帯雨林など、あまり人の手が入らない自然に生息する生物の生態を調べる「生態学」に対して、都市と生物の関係を調査する学問が「都市生態学」です。都市生態学とは、生物の多様性が人間社会にどのような利益をもたらすのか、都市生活のクオリティにどんな影響を与えるのか、といったことを調べる学問です。例えば、道の脇に生えている街路樹にもいろいろな機能があります。日差しを防いで地表の温度を下げるほか、都心のビル風を受け止めて和らげる機能や、雨を蓄えて都市洪水を防ぐ機能も担っています。あなたも道に積もった落ち葉を見て、季節の移ろいを感じたことがあるでしょう。自然の少ない都市空間において、街路樹は季節を感じさせてくれる存在でもあります。

貴重な自然が残された未利用地の活用法

現在、日本各地で人口減少にともなう未利用地の問題が顕在化しています。土地には固定資産税がかかるので、なんの使い道もない未利用地のままにしておくことはリスクがともないます。都会の未利用地は収益性の高い駐車場などに転用されますが、例えばその未利用地にその土地ならではの貴重な自然が残されていたら、そのまま保全するという選択肢もあります。そこに残された生物多様性が地域社会にとっての財産になるのであれば、税金を投入して保存するのです。

多様性が育む「生態系サービス」とは

しかし、日本では未利用地をそのまま残すケースは滅多にありません。駐車場などにする方が手軽で収益も見込めるからです。そして、未利用地を自然のまま残すとしても、その土地ならではの自然の生かし方、生物多様性のあり方を考慮したうえで残す必要があり、そこには議論の余地があります。生物の多様性によって人間社会がなんらかの利益を受け取ることを「生態系サービス」と呼びます。都市の中で生物多様性を残すことは、われわれの幸福にどう寄与するのか、都市と生物の関係をとらえ直して考える学問が都市生態学なのです。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

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先生情報 / 大学情報

横浜国立大学 都市科学部 環境リスク共生学科 教授 佐々木 雄大 先生

横浜国立大学 都市科学部 環境リスク共生学科 教授 佐々木 雄大 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

都市生態学

先生が目指すSDGs

メッセージ

受験を意識すると、効率的に点数が稼げる最短経路の勉強になりがちですが、興味のある学問は独学でもいいので時間があるときに学んでおきましょう。
私の現在の専門は生態学ですが、高校時代に生物を学んでいたわけではありません。高校時代は物理と化学を選択していました。大学で生態学に出合い、高校時代の生物の教科書を読み返して学び直しました。大学ではさまざまな学問や、あなたが好きと思えることに出合えるので、焦らずに自分の興味がある分野を追究してください。

先生への質問

  • 先生の学問へのきっかけは?
  • 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?

横浜国立大学に関心を持ったあなたは

横浜国立大学は、高い国際性と実践的な学問を尊重し、社会に開かれた大学をめざします。全学部の学生がひとつのキャンパスで学び、学部の垣根を越えた交流ができ、国立大学には数少ない経営学部も置かれています。新しい潮流を起こして21世紀の人類社会に貢献できるよう、社会からの要請を的確に把握し、国民から委ねられた資源を有効に活用しつつその活動を開放し、社会の期待に応えます。