一つひとつの細胞はどんな個性を持っているのか
コンピュータを使って生命の仕組みを理解する
体の中には神経や心臓の細胞など、さまざまな細胞がありますが、細胞の中にある遺伝子のゲノム配列は、すべて同じです。ひとつの設計図から多様が生まれる仕組みを解くには、一個一個の細胞を高精度に計測し、膨大な情報をコンピュータにのせ、共通する特徴や違いを見つけ、理解していく必要があります。細胞そのものはアナログですが、情報をデータ化してコンピュータで扱うには、AIや機械学習のアルゴリズムなど、研究には高度な数学が欠かせません。また、計測技術や実験技術を新たにつくる必要があります。
技術の飛躍的な進歩によって可能に
2010年代の前半から、細胞内の全遺伝子が持つ機能を計測する研究が本格化しました。計測できる細胞の数が増えていき、2010年代の後半には、日本での研究により、計測の精度が飛躍的にアップしています。「1細胞RNAシーケンス」という、細胞内のRNAを調べて、どの遺伝子が、どれぐらい使われているのかといった情報を取り出す技術です。
細胞の個性と疾患との間には大きな関わりがあります。例えば、脳疾患の原因を解明するアプローチとして、患者の血液から細胞を取り出し、iPS細胞を作って分化させれば、間接的に脳の細胞群を再現することができます。そこで一個一個の細胞を健常者のものと比較すれば、どの細胞が特定の疾患に関係しているかがわかってくるのです。合わせて細胞ごとの薬の効果も確認できます。
一個の細胞と細胞群とを比較する
研究を進めると、どの細胞とどの細胞が物質のやりとり、つまりコミュニケーションをしているか、細胞という一つひとつの個性が、集団の中でどのように働いているかといったことも、だんだんわかってきます。病気や老化が見られるのは、そういう関係が破綻した時、つまり個性のハーモニーが崩れた時です。また、一個の細胞と細胞集団の機能や振る舞いを計測すると、個人と社会の仕組みとの関係と、共通性が見えてくることがあるのです。
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先生情報 / 大学情報
東京科学大学 医歯学系(旧・東京医科歯科大学) 総合研究院難治疾患研究所 ゲノム機能情報分野 教授 二階堂 愛 先生
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