ミクロの世界で起こる、ウイルスと細胞の壮絶な綱引き

ミクロの世界で起こる、ウイルスと細胞の壮絶な綱引き

ウイルスと人間の絶え間ない関わり

ウイルスは、病気のような悪いことを起こすばかりではなく、人間が健康な時には共生しているものもいます。例えばヘルペスウイルスなどがその代表例です。私たちの体とウイルスは独立して活動しているというよりも、絶えず互いに関わり合いながら暮らしています。しかしその均衡が破綻すると、病気になるというわけです。ウイルス学は、細胞という生命体の最小単位と、ウイルスとの関わり合いを研究する領域を含む学問です。

ウイルスは細胞から分子を盗もうとする

ではウイルスはどのようにしてヒトの中で増えるのでしょうか。ウイルスは微“生物”というものの、生命というより物質に近い存在で、タンパク質の殻に少量の遺伝子が入った化学カプセルのようなものです。それ自身では増えることはできず、必ず細胞内に入りこむ必要があります。ただし、あまりにシンプルな構造なので、細胞内に入るだけでは複製を完了するための情報量が少なすぎます。そこで、増殖するために細胞から色々な分子を盗んでくるのです。

細胞は防御のための物質を作って抗戦

しかし細胞側も負けてはいません。ウイルスの存在をキャッチした細胞は、インターフェロンという液性物質を作り、周囲の細胞に危険信号を出します。すると一時的にウイルスをたたく分子が増えて、強い細胞になるのです。細胞内で分子を使った細胞とウイルスの綱引きが行われている様子を想像してみてください。インターフェロンの刺激によって細胞が作り出す武器となる分子は、400種類以上あると言われています。ただ、これらのすべての働きは、まだ詳しくはわかっていません。きわめてミクロな世界なので、観察手法の開発も重要ですし、安全レベルの高い実験環境が必要となります。それでも研究を行うことによって、ウイルスの複製メカニズム、そしてそれに対する人体の制御機構がいかに巧妙なのかがわかってきます。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。

先生情報 / 大学情報

大阪医科薬科大学 医学部 微生物学・感染制御学教室 講師 鈴木 陽一 先生

大阪医科薬科大学 医学部 微生物学・感染制御学教室 講師 鈴木 陽一 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

ウイルス学、微生物学、感染制御学

先生が目指すSDGs

メッセージ

研究者としてのやりがいは、社会へ貢献するという使命と、自然の仕組みを解き明かすという純粋な楽しみを実感でき、それらを仕事にできるところだと思っています。
高校生のあなたにとって受験勉強は大変だと思いますが、実際は大学に入ってからの人生の方が長く、答えを探す毎日がとても多くなります。今から日常生活のふとしたことに疑問を持つ習慣をつけておき、例えば教科書を一冊の本として読むのもいいでしょう。『知の体力』(永田和宏著)という本は、大学に入るにあたっての心構えや生命科学の面白さに触れられ、おすすめです。

先生への質問

  • 先生の学問へのきっかけは?
  • 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?

大阪医科薬科大学に関心を持ったあなたは

2021年4月、大阪医科大学と大阪薬科大学は大学統合を行い、医学部・薬学部・看護学部を有する本邦有数の医療系総合大学「大阪医科薬科大学」としてスタートしました。
今後、医学部生、薬学部生、看護学部生がともに学べる学習環境を確立し、「医薬看融合教育」を更に発展。現代のチーム医療における医師、薬剤師そして看護職者としての役割を学生時代から強く意識できる恵まれた医療教育の環境の中、社会に貢献できる高度医療人を育成します。