個人データが人間スコアリングに悪用されないためには?
戦争で利用された個人データ
第二次世界大戦で、コンピュータの開発は大きく進展しました。敵の暗号を解読する等のために取り組んだからです。同時に、個人データが悪用される出来事が起こりました。ナチスが、法律でユダヤ人を定義し、国勢調査等で集めたデータから、ユダヤ人を選別して強制収容し、命を奪ったのです。そのような処理の怖さを教訓に、戦後はデータによって人間を選別し、人々の自由に影響を与えぬように、「個人データ保護法」が求められました。
大学受験の合否判定は個人データの適正な利用か?
個人情報の保護といえば、データ漏えいといったセキュリティ面ばかりが注目されていますが、実はデータによって人間が不当に選別され、自由が侵害されないようにすることが中核的な目的です。大学受験を例に考えてみましょう。公正に試験を行い採点して、上位者から順に並べて定員数を基準に合否を決定するアルゴリズム(計算手順)の下で受験生を選別することは法的に問題ありません。社会的に適正な個人データの利用ということができます。しかし、男子は80人、女子は60人という定員を設定した場合、果たして適正なアルゴリズムによる人間の選別と言えるでしょうか。これが個人情報保護法の問題であると気がつく人はあまりおりません。本来の法目的を皆で忘れているからです。
個人データの適正な利用とは何かを考える
現在、日本では教育履歴を記録した「教育ログ」を取得して分析し、一人ひとりの能力に合わせた個別最適化教育を進めようとしています。児童生徒1人に1台ずつ与えられるパソコンやタブレットのログから、勉強時間やテストの情報等を多数集めて分析し最適な教育プログラムにつなげようというものです。しかし、この教育ログの使い方を間違えれば「この子は将来、国に役立つ人間か」という選別につながる「人間スコアリング」にもなりかねません。個人に関するデータの何をどこまで扱うことが人権保護の観点から適正な利用として許されるのかが問われています。
参考資料
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新潟大学 法学部 法学科 教授 鈴木 正朝 先生
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