南極の氷が解けると気候も変わる? 深層大循環の謎
地球上の海水は循環している
地球の海には「深層大循環」という海水の大きな流れがあります。基本的に水は冷たくて塩分が高いほど重くなります。冷やされた海水が深層に潜り込み、さまざまな要因で湧昇しながら世界の海洋を循環するのが深層大循環です。
深層大循環の具体的な動きは、まず北極海の近く、北大西洋のグリーンランド沖で冷やされた重い海水が海の深層に沈み込みます。沈み込んだ海水はそのまま大西洋を南下してはるか南極海に流れていきます。南極海は全海洋で最も重い「南極底層水」が生成される場所です。南極大陸の近くでは、海から熱が奪われ水温がマイナス2℃近くになると海氷ができます。海水が凍る際に排出された高塩分水が加わるため重い水ができますが、さらに大陸からはみ出る巨大な氷の塊「氷床」でも冷やされるため特に冷たくなり、より深くまで沈み込むのです。
変化する南極底層水
北大西洋北部で冷やされた海水は、大体2000~3000メートルの深さを南下し、南大洋に到達します。南極海で生成される南極底層水はそれよりも重いために最下層まで沈み、インド洋や太平洋に流れ込んでゆっくりと湧昇し、また北大西洋へと戻っていきます。この一連の流れが深層大循環ですが、地球温暖化により南極底層水の性質が変化し、循環形態が変わることで地球環境にも影響が出ると考えられています。
地球規模の環境変化は必然?
温暖化により南極の氷床が解けると、当然海水の塩分が下がります。低塩化すると、これまで最も重かった南極底層水が軽くなり沈まず、循環形態がかわることになります。長期的な視点で見れば、過去にも循環が変化した痕跡があり、この一連の変化も地球規模の自然な環境変化なのかもしれません。しかし、現在進みつつある温暖化は、人為起源によるもので、地球自体も未体験の速さで進んでいる可能性があります。したがって、深層大循環の要となる南大洋で循環システムの現状とその変貌を解明し、より正確な気候変動予測へと結び付けていく必要があるのです。
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東京海洋大学 海洋資源環境学部 海洋環境科学科 教授 北出 裕二郎 先生
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