大木はなぜ大きくなり、無限に大きくはならないのか
大木の最大樹高は何で決まる?
植物が生きるには光と水が必要です。この二つをどう獲得して活用するかが植物の生存戦略です。光の獲得を有利にする方法の一つが高く大きくなることです。世界には100m以上の高さを持つ大木もあります。とはいえ、高さには限界があります。限界を決めているのは、根から十分な水を吸い上げられる高さだと考えられていました。しかし、最近の研究で、高木の樹冠(枝や葉の集まった部分)には、葉に一時的に水をためて貯水タンクのように利用するメカニズムがあることが発見されました。この機構により下からの水の「吸い上げにくさ」を補い、恒常的な水分環境を実現して高く成長できているのです。
樹種や樹齢によって異なる生存戦略
では、最大樹高は何で決まっているのでしょうか。前述の研究から、葉の水分生理機能と光合成機能の資源配分戦略が樹高限界の決定要因と考えられるようになりました。さらに、同じ針葉樹の高木でもスギとヒノキでは異なる仕組みを備えており、樹種により生存戦略が違うことが明らかになっています。また、加齢にともなう適応戦略の変化も観測されています。
このように、植物生理生態学では、木が大きくなるメカニズムから大木の生き様に迫ります。ツリークライミングや観測タワーを使った高所での直接観測・測定から、顕微鏡レベルで葉の組織やその中での水分などの分布を観察することまで、異なるスケールの研究をつなぎ合わせて知見を増やしていきます。
大木が織りなす樹上の生態系
大木の樹冠領域には地上とは異なる生態系が存在することもわかってきました。例えば、大木の枝などに積もった枯葉などによってできた土で生育する植物もあるのです。その中には大木が減ることにより絶滅危惧種になっているものも少なくありません。大木が環境に与える影響について、より一層の解明が求められています。
森林は環境に大きな影響を与えており、森林がどのように生きているかを明らかにする森林生態学は地球環境保全にとっても重要な学問領域です。
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神戸大学 農学部 資源生命科学科 助教 東 若菜 先生
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樹木生理生態学、生物資源保全学先生が目指すSDGs
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