環境が作る毒の違い ハブの進化の謎
クサリヘビ系の毒
世界には約900種類もの毒ヘビが存在するとされます。彼らは毒性にしたがって大きく「クサリヘビ系」と「コブラ系」に分けられます。コブラ系は非常に強い神経毒であり、即死性が高いのですが、毒成分があまり多様ではないのが特徴です。一方、クサリヘビ系には決定的な毒成分がない代わりに、約400種類に及ぶ毒タンパク質が複雑に組み合わさっています。日本で恐れられているマムシとハブはクサリヘビの一種です。
ハブ毒成分の違い
ハブは、鹿児島県の小宝島と宝島から南へ、沖縄県の島々まで棲息しています。また、中国大陸や東南アジアにも棲息していますが、そこでは体長1メートル程度のものが多いのに対して、日本のハブは2メートルを超えるサイズに成長します。本土に棲息するマムシと比べて咬まれた際に注入される毒の量が多いため、症状が激化しやすいのが特徴です。しかし、同じハブでも棲息地域によって毒成分が異なることが調査により明らかになりました。奄美大島や徳之島のハブは「筋壊死」を引き起こす成分が余分に含まれているのに対して沖縄本島のハブにはその毒成分が含まれていません。
そのため、咬まれた際の治療方法も異なります。奄美大島や徳之島では、咬まれた場所を必ず切開して毒を洗い流し、症状が出た時にだけ血清を投与します。一方、沖縄島では咬まれたらすぐに血清を処方するのが一般的です。このように、経験に基づいて異なる治療法ができたのは、毒成分が地域で異なることを反映していたのです。
ハブの生存戦略
沖縄属島のハブは沖縄本島のハブよりも毒成分が少ないのが特徴です。渡名喜島での聞き取りでは、ハブが餌となる渡り鳥を狙うために、季節によっては木の上にいることがあることもわかりました。一方、沖縄本島では琉球王朝が栄えたことで米作りが盛んになり、その結果としてネズミが繁殖し、それを餌とするハブがより複雑な毒成分を持つように進化したと考えられます。つまり、環境に合わせて毒成分を変化させることが、ハブの生存戦略だったと考えられます。
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崇城大学 生物生命学部 生物生命学科 教授 千々岩 崇仁 先生
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