「かまぼこ」で海の豊かさを守る循環づくり
「磯焼け」を防ぐには
沿岸の海藻は光合成をして海中に酸素を供給します。同時に魚の赤ちゃんのエサとなったり、大きな魚に捕食されるのを防ぐ隠れ家になったりという役割があり、非常に重要な存在です。ところが、海藻を食べる特定の魚、アイゴやイスズミが沿岸の海藻を食べつくす「磯焼け」が日本中で問題になっています。アイゴやイスズミは市場で人気がないので漁師が獲らず、数が増えているのです。しかし、もしこれらの魚も加工品の原料として売れるなら漁も成立します。人間が食べることで生息数が今よりも減れば、藻場が回復し海を守ることにつながります。
人気がない魚を「かまぼこ」に加工
「かまぼこ」は魚のすり身と塩でできています。製造工程ではまず魚肉を取り出し、その魚肉を水で洗います。その後、水分を搾り取り、塩を入れて魚肉を溶かしてから加熱します。歯ごたえのある食感は、塩と加熱で作られるタンパク質の三次元網目状構造によるものです。工程中、水で洗うことで魚肉の臭みや雑味が取り除かれます。アイゴやイスズミは見栄えが良くなく、臭みもあるのですが、かまぼこに加工することで食べやすくなるのです。魚肉だけを取り出すかまぼこ加工は、漁獲量のわりに活用されていない小魚やエビ、見た目が個性的なオオグソクムシなどの甲殻類の商品化にも向いています。
商品価値のないものに価値を付加する食品加工
売れなかった水産物を価値があるものに変えていくのが水産加工の研究です。加工品自体が世の中にどう役に立つのか、その加工品が流通することで世の中がどう変わるのかというイメージが重要です。加工しておいしく食べれば、飢餓をなくすことにもつながり、沿岸地域の人々の活性化にも役立ちます。現在、製造技術の根本はできており、量産設備を整えるのが次の課題です。
かまぼこ以外の加工品としては、魚の内臓を溶かしてフィルムにする研究も進んでいます。レジ袋などに活用できれば、自然環境に戻る素材としてプラスチックごみ問題解決の一助となるでしょう。
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先生情報 / 大学情報
東京海洋大学 海洋生命科学部 食品生産科学科 教授 大迫 一史 先生
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