解け始めている永久凍土と人間が共存するには

解け始めている永久凍土と人間が共存するには

永久凍土の上に暮らす

シベリアやアラスカなど北極圏に近い地域には「永久凍土」という、数万年のスケールで凍結した地盤が広がっています。そこは針葉樹林地帯(タイガ)やツンドラ帯ですが、実は人間活動も無視できません。例えば、東シベリアのサハ共和国の首都ヤクーツクは、永久凍土上に約30万人もの人が暮らしています。しかし、最近の20~30年で永久凍土の温暖化や融解が進み、自然と生活環境に大きな影響が出ています。

凍土が解けることによる影響

永久凍土の中に氷があることがポイントです。凍土内の氷が解けると、解け出た水が流れたり蒸発したりして、その場所から失われます。氷の体積が減ることで、地盤沈下が起きてしまうのです。永久凍土の街では地中に水道管などを埋めないようにしていますが、沈下により地盤が崩れ、転居を余儀なくされる人も出ています。また、草原や牧草地などで地盤沈下が起きると、へこんだ場所に水がたまり、池が広がっていきます。すると、これまでは植生が二酸化炭素を吸収していましたが、水域になると土壌中の有機物が分解されはじめ、逆に二酸化炭素の吸収が減り、メタンなどを発生させ、温室効果をさらに強める方向に土地が変化してしまうのです。

共存の工夫

温暖化は永久凍土に大きな影響を与えています。しかし、永久凍土が解け始めた原因は気候変動だけではありません。人間活動が過度に入り込んだ場所ほど解けやすくなっていることが判明しています。うっそうとしたタイガの針葉樹林は永久凍土の地面を太陽から守る役割をしてきましたが、生活地域を広げるための伐採や森林火災により失われてきました。また、永久凍土の上に建物を建てることで生活の熱が地中に伝わり、永久凍土を解かす原因になっています。気候変動を急速に食い止めることは困難ですが、永久凍土を理解した注意深い土地利用に変えていけば、影響を最小限に抑えることができるかもしれません。森林(タイガ)の保全を進め、建物を高床式にするなど、永久凍土と共存する工夫が求められています。

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三重大学 生物資源学部 共生環境学科 教授 飯島 慈裕 先生

三重大学 生物資源学部 共生環境学科 教授 飯島 慈裕 先生

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気候学、雪氷学、地球人間圏科学

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メッセージ

自分の身近で起きていることを五感で感じてみてください。毎日の通学や生活の中で印象に残る現象があるかもしれません。それらについて機会を逃さず調べてみることで、自然科学への興味や関心が広がっていくでしょう。
さらに、知らない場所に行くことで、より広い視野で物事を見られるようになってきます。特に海外は日本とは全く違うスケール感があり、行くことで価値観がガラッと変わることも。その違いから感じたことをさらに調べて考えることが、地球を意識して自然科学をとらえていくモチベーションになると思います。

先生への質問

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