遺伝子は親以外からも? 多様性を生む遺伝子水平移動
遺伝子は横方向にも移動する?
植物を観察すると、クラウンゴールと呼ばれるコブ状の腫瘍が見られることがあります。クラウンゴールは土壌細菌から水平移動したT-DNAが植物の染色体に組み込まれ、働くことによって作られています。すなわち植物は土壌細菌から遺伝子を得ることで、新たな形質を獲得したのです。
このように遺伝子は親から子へと受け継がれるだけでなく、まったく異なる生物から取り入れられることもあります。これは「遺伝子水平移動」と呼ばれる現象で、生物の多様性に大きく貢献しています。微生物のゲノム解析でも、異なる生物からさまざまな遺伝子が受け継がれていることが明らかになりました。
無性生殖でも多様性を生み出すには
遺伝子の水平移動には、オスとメスの区別がない生物でも多様性を獲得できるというメリットがあります。人間や多くの動物は有性生殖を行い、別の個体と交わることで多様な形質を生み出してきました。しかし細菌のように性別がない生物は、細胞分裂などによる無性生殖しかできません。このままでは新たな遺伝子を取り入れる機会がなく、ふとした拍子に全滅してしまう可能性があります。そこで遺伝子水平移動を行い、ほかの生物から新たな形質を獲得して多様性を生み出してきました。
薬学や環境にも貢献
上記のT-DNAの遺伝子水平移動は、遺伝子組み換え植物の開発の基礎となった現象です。さらに研究が進み、人の手で遺伝子水平移動を自在に行うことができれば、薬の開発や環境保護などにも役立ちます。例えば遺伝子が複数並んだ「遺伝子クラスター」を細菌に水平移動し、新たな抗生物質を作る試みです。従来のDNA操作は水の中で行われていたため、塩基が10万個もつながった大きな遺伝子クラスターは水の力で切断されてしまい成功しませんでした。代わりの手段として水を使わない遺伝子水平移動の研究が行われています。また、環境問題を解決するために、プラスチックなどの分解機能を持つ遺伝子クラスターを微生物に水平移動させる研究も始まりました。
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信州大学 工学部 物質化学科 准教授 片岡 正和 先生
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