「言語」からみる、多様性と未来への可能性

「言語」からみる、多様性と未来への可能性

消滅が心配される言語

言語は、使う人がいなくなれば消滅します。そうした言語をユネスコが「危機言語」として発表しました。日本ではアイヌ語や琉球諸語などが、危機言語です。世界にも消滅が心配される言語が多数あります。東南アジアのタイには数多くの少数民族がいて、話されている言語が約70あるといわれます。彼らは彼らの民族の言語と、実質的な公用語のタイ語を操ります。タイ東北部に住むクアイ族の中には、クアイ語とタイ語、クメール語、そして隣国のラオスでも話されているラオ語(東北タイ方言)の4言語を操る人もいます。それは、国内に住むクメール語やラオ語の話者たちとの交流が盛んで、生活に必要だったからです。また、クアイ族は相対的に少数派なため、クアイ族が他の民族に合わせて他者の言語を話さざるをえなかった社会的背景もあります。しかし、教育の浸透により、共通語(リンガ・フランカ)としてのタイ語で意思疎通ができるようになりました。現在クアイ族の若者が話すのは、タイ語とクアイ語の2言語になってきています。

消滅の原因

タイのブル族は人口が少なく、ある村では30代以下の若年層はブル語を話せなくなってきています。原因はいくつかあり、ひとつは差別です。ブル語を話すことで周囲の異民族から下に見られないようにと、両親がわざと子どもにブル語で話しかけず、その結果、ブル語が受け継がれなかったのです。実は隣国ラオスには多くのブル族が住んでいるのですが、ラオスが社会主義国になったことで自由な行き来ができなくなった時期があり、さらに話す機会が失われました。

言語は残すべき?

危機言語を残すか消えるにまかせるか、第三者が話者を強制することはできません。しかし何らかのはたらきかけはできます。例えばブル語なら、ブル語に対する負の意識が変われば、積極的に子どもに継承したくなる、といった具合です。言語消滅の背景はさまざまですが、話者に対して保存や復興への提言は可能です。それは、一つひとつの消滅危機の原因を明らかにすることから始まるのです。

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神田外語大学 外国語学部 アジア言語学科 タイ語専攻 准教授 冨岡 裕 先生

神田外語大学 外国語学部 アジア言語学科 タイ語専攻 准教授 冨岡 裕 先生

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社会言語学

先生が目指すSDGs

メッセージ

タイには数多くの少数民族がいます。彼らは学校ではタイ語を学びますが、自宅では自分たちの民族の言語を話す人もいます。すごいと思うかもしれませんが、日本でも、例えば地元から東京に出ると、意識して言葉のイントネーションを周囲に合わせる人もいるでしょう。タイも日本も言語を操る人の気持ちは同じです。
少数民族の人々が持つ、言葉に対する意識を理解することで、より深く相手の考えを理解できるようになり、人々の多様性を学ぶことができます。語学に興味があるなら、英語に加えて、マイナー言語にもぜひ挑戦してみてください。

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「言葉は世界をつなぐ平和の礎」という理念の基、世界の言葉と文化を理解し、世界の架け橋となる人材の育成に力を注いでいます。専攻できる言語は、英語、中国語、韓国語、スペイン語、ポルトガル語、タイ語、ベトナム語、インドネシア語。各言語の習得のみならず、その言語の使用地域に関する造詣も深めます。こうして幅広い視野と実践的なコミュニケーション能力を身につけ、世界に羽ばたいてみませんか。